May 21, 2004

水琴窟

 click image to pop up. 千葉県芝山・花の里の水琴窟

 うちの事務所のある飯田橋銀鈴会館の、1階を占めるギンレイホールのオーナー加藤さんは、本職は不動産業だが、数年前に頼まれて赤字だったこの映画館を引き受け、今では黒字になった。ただの不動産屋じゃあおもしろくないといって体の中の虫が騒ぐらしい。バブルで景気のよかったころ、水琴窟に熱中して、自宅に水琴窟をつくり、カラー写真いっぱいの2万5000円もする水琴窟の本まで作ってしまったこともある。

 3年前のことだったが「そういう金の使い道としてはいいでしょ」といいながら、ある人が加藤さんを紹介してくれた。そのころぼくは、事務所の引っ越し先をさがしていたのだが、銀鈴会館の一室を下見に行く予定だった日の前日に、ほかの用で成田の芝山に打合せに行くと、「この近くに飯田橋で映画館を持っている人がいるんですよ」と言われた。「もしかすると、ギンレイホールですか?」という話になって二人ともびっくりしてしまった。部屋は希望した広さの半分ほどしかなかったが、何かの縁だろうと思い、家賃もやすくなることだし、その一を借りることにした。

 それから2年経った去年の春、加藤さんと一緒にその芝山に水琴窟をつくった。設計施工である。初めはもっと本格的なものにするつもりだったが、事情があって大急ぎでつくらねばならなくなった。本体は、水琴窟用に常滑で焼いた素焼きの甕を使う。加藤さんの寄付。音を出す地中の本体は加藤さんの役割で、上屋と、水を落とす仕掛けはぼくが設計した。甕を埋めるときには、水琴窟の第一人者の中野之也さんも指導で参加された。工期と費用を縮めるために使った竹は、地元の真行寺建設の社長の真行寺さんが自分の孟宗の竹林から切り出して、組み立ても自身が鋸を引いた。
 最後に、水を溜めて少しずつ落とすための仕掛けにも太い竹を使い、それに点滴用のバルブで微調整する仕掛けを加えることにした。加藤さんは、その仕掛けに加えて小屋の2面に竹の簾をつくる作業のために、夜を徹して没頭した。何年ぶりの徹夜だったと満足そうだった。
 click image to pop up. 中央に吊った竹筒からすこしずつ水が落ちる
 水琴窟の仕掛けはすこぶるシンプルなものだ。まず、地面に穴を掘って底に穴をあけた甕を逆さに伏せ、下に10センチほどの深さに水が常に溜まるようにする。穴の底にコンクリートを打ち、そこから10センチのところから水が流れ出るようにした。上からわずかな水を流すと甕の穴からぽたりぽたりと水が落ちて、その雫が溜まっている水に落ちる音が甕の内側に反響して心地よい音を出す。前には、加藤さんに連れられて、彼の自宅、成田山新勝寺の庭、鹿島市の公園などに作られた水琴窟を聞かせていただいた。もとは、蹲居の足下などに仕掛けをつくり、手を洗ったひとに不思議を聞かせようとする、庭師の秘かな楽しみだったのだろう。
 
 加藤さんに引き合わせてくれた土井脩二さんとは、短い間にきわめて親しくなったのに、彼は去年の春に末期癌の宣告を受けた。西洋医学は信用しないといって輸血も抗ガン剤も堅く拒否したので、麻酔銃で眠らせて手術してしまえなどとぼくは本気半分で言ったりしたが、医者に言われたとおりおよそ2ヶ月後の5月に亡くなった。
 水琴窟は、彼の生きている間になんとか早く作って聞かせようと、土井さんが心血をそそいだ「花の里」の一画に、短期間で作ることにしたのだった。なんとか間に合ったけれど、彼はすでに外に出ることはできなかった。

投稿者 玉井一匡 : May 21, 2004 03:59 PM | トラックバック
コメント

うーむ。知りませんでした、別府に竹瓦温泉というところがあることも、それが別府のシンボル的存在であることも。大和葺きの原点が竹だったといわれればなるほどと思います。ちなみに彰国社の建築大辞典を調べてみたら「大和葺き」の項には竹のことは書いてありませんでした。しかし、葺き板は、年輪に沿って挽き割った板を使い、板の反りかたを上下に交互にして重ねたとありますから、竹瓦と同じ理屈です。「竹瓦」という項目もなくて、がっかりしましたが、数寄屋図解事典でも同じでした。

Posted by: 玉井一匡 : May 24, 2004 03:24 PM

いや、僕もこの写真を見て「あっ竹瓦だ!」と思っただけで、実際に竹瓦が存在するのかはそれまで知りませんでした。この竹瓦が凄いと思ったのは屋根材が下地材(構造材)を兼ねていることですね。
それで竹瓦をGoogleで検索したら大分の竹瓦温泉しか出てこないので、「竹の瓦」で検索したら、竹瓦温泉の建物は「竹の瓦」で葺かれていたことから、その名前が付けられたそうですね。
http://www.coara.or.jp/~sanken/takegawara/photo_takegawara.html
このサイトをみると大和葺きは竹が使われていたと書いて有りますね。伊勢神宮の付属屋の大和葺きは桧板だから、大和葺きは板材で葺くものと思っていましたが、それだけじゃないみたいですね。
http://www2u.biglobe.ne.jp/~gln/35/3503.htm

Posted by: iGa : May 24, 2004 12:10 PM

igaさんへ
 じつをいうと、恥ずかしながら「竹瓦」の存在をぼくは知りませんでした。
竹を二つに割ってスペイン瓦みたいに使えばいいと思いついて、こんど竹の茶室をつくろうなどと思っていたのでした。この水琴窟の上屋を作ったあと、いつだったか「ジョイフルホンダ」に行くと四阿のセットで竹瓦を使ったものを見つけました。ジョイフルホンダのことだからけっこう安くて、内心ひどく落胆しましたが、当たり前ですね。こんなことはごく自然な発想だと、たちどころに納得しました。
 しかし、竹という材料はすぐに育つし美しいし食料にもなるのだから、もっと使いたいとは思っています。

Posted by: 玉井一匡 : May 23, 2004 08:21 AM

akiさんへ
まったく、遅くなってはずかしいかぎりです。
土井さんという傑出した人物について、書きたいことが沢山あるものだから、そのうちにと思っているまに一周忌が来てしまいました。これを機会に土井さんのことを書こうと思っています。

Posted by: 玉井一匡 : May 23, 2004 08:20 AM

竹瓦が格好良い!

Posted by: iGa : May 23, 2004 12:07 AM

いい話しですね。
もっと早く、ちゃんと詳しく、教えてください。

Posted by: AKi : May 22, 2004 11:11 AM
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