February 01, 2005

映画ポスター・スチール写真展

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 昨年の12月、ギンレイホールで数年前まで使われていた映写機が、トラックに積まれて成田に運ばれた。これが現役の当時は、映写室には2台の映写機が並んでいて、1台が動いているあいだ、もう一台はつぎのフィルムをかけたまま待機していて、1巻が終わると瞬時につぎの機械に交代したのだ。それと気づかせずに取り替えてみせるのが映写技師の腕の見せどころだったのだろう。 現在では映写機の出す熱がすっかり少なくなったし、フィルムが長くなって1巻が1本になったので、映写機は1台だけですむようになった。この古い機械は、ギンレイホールの上、4階の事務所に置かれていたのだった。この日、いかにも映画の職人という雰囲気を漂わせた人物が現れた。いまでは残り少なくなったという、この映写機をいじれる技術者のひとりなのだ。

彼が分解した映写機を、エレベーターのない古いビルの4階から大の男が3人がかりで階段を下ろし、厚い無垢のタガヤサンの台に乗せた。こともなげにもう一度組み立てて名人が去ったあと、ギンレイの社員があつまってトラックに踏み込んだ。
 これは一旦成田に運ばれたあと、ギンレイホールの開業30周年を記念して開かれる「映画ポスター、スチール写真展」に展示するために、会場の「なかのZERO」に戻ってくる。
 ギンレイホールのオーナーである加藤さんが、このところかかりっきりになっているこの催しは、会員のための映画会をひらきたいというところから始まった。それに加えて、これまでに上映した映画のポスターとスティル写真の展示会もいっしょにやろうということになった。あちらこちらと会場を探した結果、収容人数と施設の利用料金、交通の条件などから、中野駅の近くの中野ゼロホールとそれに隣接する中野文化センターの美術ホールを借りることになった。

 加藤さんというひとは、やり始めると次から次へとひろがって深みにはまっていく。にもかかわらず、赤字に苦しんでいたこの名画座を引き継いでからギンレイ・シネパスポートという会員制のシステムを発明して改装も重ね、いまではすこぶる順調な状態に立て直すという商才の持ち主でもある。もともと映画には素人だから、わたしは映画には口をださないと言って、演しものの選択は支配人の潮見陽子さんにまかせている。ポスター展のポスターは、1990年以前の作品からポスター500スチール写真500枚を潮見さんが数百点を選びまとめた。
 そういえば、かつて僕はスチール写真というのはなにか鉄と関係があるんだと思っていた。あとになって、動く映画に対して動かない(still)写真という意味らしいと気づいた。気づかなかったのがお馬鹿さんだったのか、あとになってからでも気づいたのはお利口さんなのかわからないが。

 「ちょっとうちの事務所に来られますか」という電話がきたので、階段を4階まで駆け上がってゆくと、会議室の壁の一面にびっしりと、合板に描かれた映画看板が掛かっている。加藤さんはちょっと得意そうににこにこしている。「銚子に、こういうのを描く人がいるんで会ってきたんですよ。」
ちょっとどぎつい黄色や赤の色と荒い筆づかいのために、オードリー・ヘプバーンの表情さえ近くで見ると演歌調を帯びているけれど、シネコンの映画館のこぎれいなデジタルの世界より、むしろこの方が古い名画座には似合っている。青梅には、まちのあちらこちらに古い映画の看板があって、町おこしの一端を担っているという様子も、加藤さんは見てきた。青梅の写真もこれと一緒に並ぶことになった。

 こんなぐあいに、時がたつとともに加藤さんは「これもやろうと思うんだけど、どうだろう」といいながら、すこしずつ企画を加えていった。ポスターをデジタルカメラで撮って、プロジェクターで映そうかなと言っているうちに、キャノンのデジタルEOSを買い込み、三菱のDLPのプロジェクターも用意してしまった。サウンドトラックといっしょに、ポスターとスティル写真のスライドショーが加わった。

 同じ部屋で、「旅先が映画館」というビデオを見せていただいたことがあった。函館に住む西崎春男さんという人が、ワンボックスに映写機を積んで北海道中を走り回って、学校の体育館などで映画会をしているのを記録したドキュメンタリーだった。「あのビデオも上映しようと思っているんですよ」と聞いてからしばらくたつと「あのおじさんを車ごと呼んで実演してもらおうと思うんですよ」と言うから、「それができたら最高ですね」とぼくは言っていたが、週末には加藤さんは函館に渡った。数日後に会ったときには、2月2日にクルマごと大洗までフェリーで来てくれることになったという。西崎さんの映写機は、カーボンの棒で発光させて写すというもので、今ではこれを使っている人は他にはいないらしい。

fromstairs.jpg こんな具合に振り返ってみると、映写機、看板絵師、移動映画館主、それに支配人の職人気質の展示会でもある。それを動かしている加藤さんにも、商売気よりは職人気質がまさっている。 先週、もう開催まで1週間に迫った夜に、広報を請け負う会社の担当者がギンレイの事務所に来た。「これだけの企画がありながら、今から数日間でメディアに伝えるのは、限られた範囲にしかできません。もったいないなあ」と彼女は残念がった。「はじめは、こんなつもりじゃあなかったんだから、しょうがないんです。それは、分かっていますからやれるだけのことをやっていただければ結構。」と、加藤さんは割り切っている。そういうぼくも、この話をずっと相談をうけながら、いままでblogに書いていない。もう明後日が搬入になってしまった。
4,5,6日に中野ZERO、美術ギャラリーで開かれる。入場無料。

投稿者 玉井一匡 : February 1, 2005 06:51 PM | トラックバック
コメント

土曜日に見て来ました。カーボンの映写機によるアニメという予想外のおまけもあって楽しかったです。最近は映画も御無沙汰ですが、古いポスターを見ると、古いものは結構みていたことを思い出しました。、高校の2年か3年の時に名画座になった訳ですね。佳作座は最初から名画座だったのかな。二軒はしごして一日過ごしたこともありました。
そう言えば、そう言う映画を見た事もありました。

Posted by: kawa : February 7, 2005 11:34 AM

kawaさんのメールにこんな疑問が書かれていました。
 「ギンレイが、30周年ていうのはどうも腑に落ちない。高校時代にギンレイと佳作座(いまはパチンコ屋になっている)にいっていたけれど、そのころも新しくはなかった」
ぼくも同じ疑問を抱きながら訊ねるのを忘れてしまっていたから、支配人の潮見さんに質問した。正解は、「名画座になってから30年。その前には封切館だったことも、ロマンポルノをやっていたこともあった。昭和34年にはじめにつくられた」なのでした。それで、計算が合う。もしかするとkawaさんは、中学生の頃にロマンポルノに通っていらしたのかもしれませんね。

Posted by: 玉井一匡 : February 6, 2005 11:50 PM

 紺屋の白袴というか、毎日午前中に寄っているので、昼からの上映をぼくはまだ見られません。結局最終日になってしまいました。

Posted by: 玉井一匡 : February 5, 2005 07:24 PM

本日、西崎さんの映写機での上映会に中野までいってきました。 カーボン式映写機から放たれるアニメーションの映像と音は やわらかな暖かみがあってとてもすてきでした。 機械好きな人、 CGを使わないアナログアニメ好きの人は必見ですね。 明日が最終日、時間は未定ですが、数回の上映が予定されているようです。

Posted by: いのうえ : February 5, 2005 07:19 PM

私は玉井さんがおっしゃるほど難しく考えていません。
河さんのいうように「男らしい」が一つの褒め言葉であるというように、「機械らしい」という褒め言葉があると考えています。まぁ、「機械らしい」と云われて、その機械が喜ぶとは思いませんが。
例えば、コダックのスライドプロジェクターのカローセルなんて、「機械らしい」と褒めてしまいたいのです。

Posted by: 秋山東一 : February 4, 2005 06:48 PM

機械らしいのがいいっていうのは、結局は因果関係がよくわかるからいいんでしょうね。そして、因果関係というのは、ものの存在理由ということでもあるわけだから、それがはっきりしてるってことはモノを見てその背後の世界が読みとれるってことになる。
 けっきょくは、機械も建築もまちも同じことだと思います。「建築は住むための機械」なんていうことばだって、索漠たるものを言っていると世間では受け取られるけれど、けっしてそういうわけじゃないんだと、ぼくは思います。

Posted by: 玉井一匡 : February 4, 2005 04:57 PM

「機械らしい」、いいですね。
最近とみに、機械らしい機械が減っているような気がします。中身の分からない機械、電子的機械に依存する毎日ですから。

Posted by: 秋山東一 : February 4, 2005 09:36 AM

男らしいというのが褒め言葉だとすれば、機械らしいという褒め言葉があって良いように思います。
いいなぁ〜、映画館の人と友だちだなんて、ニューシネマパラダイスじゃなくても、憧れるひとは多いと思います。
私もサウンドシステムなんて見せて欲しいです。

Posted by: kawa : February 4, 2005 03:25 AM
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