May 05, 2005

東急ハンズの向かいに


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 連休中だからまだクルマの少ない朝、渋谷の東急ハンズに注文したものをとりに寄った。いつもとは風景が違って見える。ハンズの前の坂道をはさんだ向かいに、かつて壁の穴というスパゲティ屋があった。タラコやイクラをスパゲティに使い始めた元祖の店だ。いまは、そこにアウトドア用品のモンベルのビルになっているが、その前の歩道際に若い葉を繁らせた木が1本だけ立っていた。
 ぼくは久しぶりに思い出したことがあったので、受け取った板をクルマにのせたあとでバッグからデジカメを取り出してミカンの木のところに行くと、木の根もとを見た。もしかしたら、ある痕跡がのこっているかもしれないと期待をしたからだ。ガードレールが、二またに分かれた木の幹に食い込んでいる。むしろ、幹がガードレールをくわえ込んでいると言うべきかもしれない。ぼくが見たかったのは、その下なのだ。もう6,7年ほど見ていない。

  
 が、「・・・・・ない」。落胆しつつしゃがんでめがねを取り出し、よーく見ると、それとおぼしきもの。さわってみると柔らかくあたたかい。ちょっとゆびさきでつまんでみると折れた。やはりまだあった。
 30年近く前、壁の穴にタラコのスパゲティを食べに来て、店の前でぼくがそれに気づいた頃には、路肩のガードレールを背にしておかれた箱に土を入れてそこに小さなミカンの木が植えられていた。というよりは、きっとタネがそこに捨てられたのが育ったのだろう。やがて、木はすくすくと成長し、枝と葉は上へ横へとひろがり、根は地球の表面に達した。発泡スチロールの箱の底は、その途中で突き抜け、木は発泡スチロールにの箱には不似合いの大きさになった。30年ほどの時間を経たいま、土の上に出ていた発砲スチロールは折れてなくなり角は丸まり表面は土色に染められた。ちぎって出てきた発泡スチロールは、真っ白だった。あとになって写真を拡大すれば、現物をみるよりもはっきりと分かった。

 こいつをみるたびに、僕はいつもうれしい気持ちになった。渋谷のど真ん中の、歩道とも車道ともつかない道路の縁に、捨てられるはずの発泡スチロールの箱を植木鉢がわりに植物を植えた。だれかに捨てられたミカン、もしかすると店でサラダに使ったレモンだったのかもしれない、そのタネが芽を出す。すくすくと成長し窮屈になって底をやぶって土を探り出す根。やがてミカンは道路に影をおとすほどの大きさになっても、幹の根元には、木の大きさには不似合いで、さながら大人の腰につけられたビニールの浮き輪のように、発泡スチロールの箱がまだしっかりと残っている。道路の舗装工事にも木が残された。渋谷区役所が近いので道路課のひとたちもとおりがかりにこのミカンの木を知っているからだ。近くの幼稚園と小学校に通ったこどもたちが、いまでは働きざかり。想像が、かぎりなくふくらんでゆくのだ。
 
 

投稿者 玉井一匡 : May 5, 2005 09:54 AM | トラックバック
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