July 10, 2005

カヤック

kayakmokufu.jpg
 阿佐ヶ谷の木風舎というアウトドアショップからメールが来た。「ご注文いただいた「カヤック」という本が入荷しましたので、ご来舎をおまちしております。お代は伏見さまよりいただいております」すごくいい本だからと伏見さんが快気祝いとしてプレゼントしてくださったのだった。この店は日曜祝日が定休日だというので、土曜の夜に読みたくて午前中に取りに行った。木風舎は、JRの高架線の近くに店を構え、あるじが自分の好きなアウトドアの本や道具をすこしずつ並べている。「木風舎 アウトドアスクール」と看板に書かれた店は、入りにくくて地味で好ましい。店というよりミュージアムショップのようだ。
 こいつは、伏見さんらしい本だ。一目見ただけで一筋縄でいかないやつであることがわかる。まず、全編手描きのイラストに、文字まで手描きだから、翻訳者は言葉だけでなく文字まで日本語に書き換えなければならなかったわけだ。おかげでこちらは気楽に読むことができる。

つぎに、カヤックの本でありながらその楽しさについてはひとことも語らない。カヤックの技術についての説明はことごとく具体的かつ論理的だが、ひたすら、遭遇する危険をどうやり過ごすかという立場をはなれない。水の中にモノが置かれたときの水の振舞いについての記述で一貫している。ひとことで言えば流体力学だが、とっつきやすくて面白い。ここでは水力学と書かれている。システムに人間とカヤックが加えられているからなのだろう。
 じつは、カヤックについての本であるよりも、カヤックをタネに流体力学あるいは川の力学を語る本なのかもしれない。読者は水の上でなく川岸にいて、愚かな振舞いをする自分自身をわらい、あわてる仲間を救うことを考えながら力学を学ぶ。1993年初版、1997年6刷とあるから、もう絶版なんだろうかと、amazon.comを調べたら、ちゃんとあった。カヤック—カヌー乗り必携!イラストで見る究極の川下りマニュアルそういえば、シトロエンが車種の頭にCをつけるようになったのはCXが初めてだったが、それは流体力学の抵抗係数がCxという記号で表示されるのをつかったのだから、カヌーはシトロエンとあながち縁がないわけではない。
 かつてぼくは小松左京の日本沈没を読んで、地震にたいする気持に変化がおきた。地球にとってみれば、地震とは日常的な活動の、ささやかな結果にすぎないと知ってから、あまり恐怖感を感じなくなった。恐怖感はパニックのモトだ。この本は、川の危険について同じような効果をもたらす。あるいは、サッカーにおけるすぐれたミッドフィルダーが、他のプレイヤーと同じ高さの視線にありながら、全体の状況を把握しゲームの流れを予測をできるように、客観的に川の危険がわかるようになるのだろう。

「だろう」と終わらせなければならないのはつらいところだが、なにしろ、ぼくのカヌー歴ははなはだ浅い。カヤックも何も持っていない。この本を贈ってくださった伏見さんがぼくのカヤックの師匠だというのも小声でいわなければならないほどの駆け出しというより見習いにすぎない。一昨年からわずか2回、奥利根湖に1回と佐原の堀割から利根川を横断して潮来まで行ったのが1回きりだ。伏見さんはカヤックを貸してくださり、初心者向けの場所につきあい、教科書を送ってくださった。伏見さんは塚原のかみさんの友人にして彼女のカヤックの師匠である。そのおかげで、ぼくは「弟子」となることができたのだった。

 この本はカヤックの危険とそれに対する対処に終始しているところをみると。読者がカヤックを嫌うことを恐れていない。それは、おもしろさに確信があるからなのだ、きっと。もちろん、危険のとなりが面白いんだという事実もあるだろう。しかし、水と一体になる快感は、スキューバ・ダイビングとは質の違う、けれども同等以上のものがあると,ぼくのささやかな経験でさえ思う。水と空気の境界を、すべるように移動すれば、水鳥が水面をたたきながら飛び立ち、スキーのように足をそろえて着水するのと同じ高さにぼくはいる。水を叩く大きな音たちに振り返ればハクレンの群れが、ぼくの目の高さより上まで行っては水面を切り裂いていた。掘割から見上げれば江戸時代の町の見え方を理解する。今でも使っていたのかとおどろかされた閘門は、近所の老夫婦が管理をしているので、開くのを待ちながらの世間話。川を道のようにして行き来する楽しさを過去のものにしてしまうのはもったいない。
 ちなみに、この著者はマウンテンバイクの本も書いている。「カヤック」の表紙の裏には、自宅の裏に置かれた飛行機とならんだ写真がある。

投稿者 玉井一匡 : July 10, 2005 05:39 PM | トラックバック
コメント

教えて頂いた九州読売のサイトで、まあしゃんと火野葦平の交流を興味深く読みました。まあしゃんの写真も、初めてみました。一度会って、話を聞いてみたかった。
火野葦平の書いた「花と龍」の主人公のモデルは父親で玉井金五郎という名でしたが、ぼくとは何の関係もありません。たしか、石原裕次郎の主演で映画になったなと思い調べたら、浅丘ルリ子が共演でした。小説は読んだけれど映画は見ていないので、こんど、ビデオを借りて来るぞ。五木寛之の青春の門もそうでしたが、北九州の任侠の世界の物語なのです。そういうの、わたくし実は好きなんです。モダニズムや合理主義とは対極の、けれども魅力に満ちた世界。うーむ、インターネットはどんどん世界を広げてゆくぞ。・・・すごい。

Posted by: 玉井一匡 : July 25, 2005 12:57 AM

いろいろ、探して下さってありがとうございます。
あの後すぐにamazonで「カヤック」と「私の釣魚大全」を注文しました。
「フィッシュ・オン」と解説を見比べて、鯉とりまあしゃんの雰囲気は「釣魚大全」のほうが近いと思いましたので迷いませんでした。
amazonで扱っていたのはやはり文芸春秋の文庫本で、単行本のほうは在庫切れのようでした。
読み終えたら「フィッシュ・オン」を買うことにします。
鯉とりまあしゃんの話、実はどこかで聞き覚えがあるような気がしていました。
私も検索してみましたら、たいへん有名な方の実話だったのですね。
故・火野葦平氏とはお友達だったのだと下記のサイトにありました。
http://kyushu.yomiuri.co.jp/magazine/monogatari/mono/mo_mo_040218.htm

タイニーハウスは紀伊国屋のオンラインで購入することにします。
それからまたお小遣いがたまったらシェルターを買うことにします。

Posted by: noz : July 24, 2005 08:25 PM

うちの本棚には見つからなかったのですが、Googleで釣魚大全をさがしたら、なんのことはない文芸春秋社のサイトなのでしょうか、内容の紹介に鯉とりまあしゃんのことが書いてありました。文春文庫になっているのでした。

Posted by: 玉井一匡 : July 24, 2005 08:05 AM

 いろんなこと、ありがとうございます。
タイニーハウスがないって、再版になることなんだったらうれしいなあ。
「鯉とりまあしゃん」が、どの本に書かれていたのか憶えていないままエントリーしたのですが、フィッシュオンを引っ張りだして確認したら、そこにはまあしゃんはいませんでした。きっと「私の釣魚大全」だとおもいますが、こちらはまだ見つからない。分かり次第報告します。ぼくは「フィッシュオン」が大好きで、5、6回は読んでいるのに、書いてあったものをよく憶えていないんだからしょうがない。
「鯉とりまあしゃん」でgoogleを検索したら5つ出ていました。「鯉の巣」という川魚料理の店の紹介でした。まあしゃんはすでに亡くなったが残された店が出ているのでした。開高のことはなぜか書いてなくて、火野葦平の小説に書かれたとありました。ぼくの間違いがひとつ、遠賀川でなくて筑後川のようです。コメントを訂正しておきます。ここのサイトは、正直なところ、まあしゃんが伝説の中のひとじゃあなくなるようなものだけれど。下記のアドレスです。
http://www.geocities.co.jp/Foodpia-Celery/3311/carp.htm
開高の数々の釣りの本もカヤックもタイニーハウスもそうかもしれないけれど、想像力を膨らませて何度も楽しめるという本かもしれません。
本がみつからなければ、お貸しします。

Posted by: 玉井一匡 : July 23, 2005 02:05 PM

長々コメント打ってしまった後、うーんうーんと考えたのですが、ウェーダーを着てフェルト底の靴を履いていたって、川についての知識が乏しいということは丸腰も同然、これでは川遊びもままならないということに気が付きました。
カヤックという本を読んでみよう、開高健の本も読もう、と決めて、
それにタイニーハウスも注文するぞ!と思ってamazonを覗いたのですが、タイニーハウスの新品は在庫がないようでした。
ユーズドなら買えるようですが、やっぱり新しい本が欲しい・・・。
紀伊国屋書店にはまだ在庫があるようです。
でもせっかくだからMyPlace経由で購入したい・・・。
うーんうーん、どうしましょう。

Posted by: noz : July 22, 2005 11:13 PM

フライフィッングは、前からやりたいと思いながらやったことがありません。つくりものの餌で魚を捕まえようというのだから、餌釣り以上に水の中の魚たちの動きを想像しなきゃならない。そして狙ったところに、しかるべき動きを与えてフライを投げる。鳥がいる、木がある、虫がなく、そして川があるという中で思うようにフライをなげられれば、それだけで楽しいだろうなと思いますが、そのうえ魚を釣ることができたらもっとうれしいだろうな。Nozさんが「それが楽しいんだ」といわれるのはよくわかるな。
 未知のもの分からないものを怖いと感じるときと、それが魅力に思われるときがあるけれど、nozさんは、どちらかといえば好奇心旺盛な人だろうに、水の冷たさに恐ろしさを感じたというのが、ぼくには不思議に思われますが、それにも増して想像力が強いのでしょうね。
 開高健の本「フィッシュオン」だか「私の釣魚大全」だったかに、鯉とりまあしゃんというじいさんの話がありました。冬のさなかにふんどし一丁で筑後川の底までもぐり、冬眠中でうごきの緩やかになった巨大な鯉を抱いてつれてくるというのです。「おなごを抱くように寄り添ってやさしく抱いてやるんだ。そうすると、鯉はおとなしく来るんだよ」と、コツを話してくれたというのが記憶には残っていますが、正確にはどんな言葉だったのか。
そんなことを想像すると、巨大な魚も冷たい川底も、なんだか親しみがわいてきませんか。

Posted by: 玉井一匡 : July 20, 2005 07:42 PM

もう何年もロッドを握っていませんが、夫の趣味であるフライフィッシング&キャンプに付き合って、ウェーダーを身につけて渓流を上った時の事を思い出しました。
ある夏の夕方、急な流れの中に下半身を浸して、岩にへばりついて川底をフェルトの靴底で探っていたら、ふと怖くなりました。
腰から下の冷たく重い世界は、私のまったく知らない別世界であることに気が付いたのです。
頭上の空は果てしなく遠く、水音以外に何も聞こえない。私の叫び声など掻き消してしまうだろう。水の世界には何かが潜んでいて、私を呑込んでもそれを誰にも告げやしないだろう。
怯えた私は急いで水から抜け出し岩に登って相方を探しました。相方は私よりも少し上流にいて、落ち着いて、楽しげでした。その時見た風景はひとつひとつ幻想のようでした。
その夜のキャンプで、夫に私の恐怖体験を話すと、夫は満足げに微笑んで、水の中の世界を想像するのが釣りの楽しいとこなんだよ、と言いました。
カヤックは、もっともっと直截に積極的に水の世界に突入するのだから、もうその魅力というのは、釣りでびびっている私などの想像の及ぶところではありません。すごい冒険なんだと思います。
ハクレンですが、産卵期の大ジャンプが見られる栗橋と古河のあいだあたりの利根川は、私たちの住んでいたところから車ですぐの場所で、一度見に行ったことがあります。
その年は、小さなジャンプしか見られませんでしたが、コンクリの堤防を水面ぎりぎりまで降りていくと、よどんだ暗い水の中に、ぬらっぬらっと不気味な影が動いていて、やがてそれが無数の巨大な魚になって、はっきり見えた時は本当にぶったまげました。
時々大きく水しぶきをあげて空中に姿を現しましたが、ハクレンの群はあちこちに分散して固まって始終イライラしているような黒い影になって水面を揺らし続けていました。
足下の、一歩先には自分より大きな魚が泳いでいるんですから、水の中とは恐ろしい世界です。どう考えても、一歩先に行けば、私はハクレンに食べられているようにしか思えませんでした。

Posted by: noz : July 20, 2005 12:09 AM

ありがとうございます。
今日、本屋に行って3冊の本を持ってレジにいこうとして、ふと秋山さんの忠告を思い出し、amazon.comにはない風呂用の本だけをのこしてレジにむかったのでした。自分のはだめなんだってのは、なーんだってかんじですね。そりゃあ、誰もが登録して結局はみんなが割引で買っちゃうってことになるでしょうからね。
せいぜいAKIi'sstocktakingから注文しまっす。

Posted by: 玉井一匡 : July 12, 2005 10:41 PM

この「カヤック」を amazon に注文しました。もちろん、玉井さんのサイト経由でいたしましたですぞ。

ところで、本日、amazon からのメールで、2005年第2四半期の紹介料のリポートがきましたが、自分のサイトでの自己注文は、紹介料の対象とならないいんだそうです。だからマイレージとは違うのですね。

従って amazon associates の準備のあるサイト、例えば MyPlace とかから注文しないといけないですね。

Posted by: AKi : July 12, 2005 10:18 PM

追記:Fさんにお礼メールを送ったら返事をいただきました。
翻訳の杉本美穂子さんをそそのかして、スラングのゴロゴロ転がる翻訳の急流に向けて背中を押したのは、ほかならぬFさんのしわざだったのだそうだ。たしか、「あぶないところがあったら、仲間をそそのかしてやらせてみるのがいい。あるいは小枝を投げ込んでみる」なんてことがこの本に書いてあったぞ。
杉本さんというのは旧姓で、今は木風舎の代表の橋谷晃さんと同じ姓になって、ときどき店番をしているそうだが、ぼくが行ったときはほかの人でした。

Posted by: 玉井一匡 : July 12, 2005 08:02 PM

 メカニズムをモデル化して示してるところが「THE WAY THINGS WORK」に似ていますね。カヤックをやるかどうかは別としても、おもしろい本だと思います。
頁の右下には、パラパラ漫画があって、ひっくり返ってからパドルで一回転してもとに戻るまでが見られるんです。
 デジカメが起動しないので、携帯電話の写真を入れましたが、こんどはスキャナーで取り込んでやりなおしましたから、click to pop up.です。

Posted by: 玉井一匡 : July 11, 2005 06:30 PM

ちょっと前、このカヤックについて楽しそうに話されるのを聞いて、ふーん、と思っていました。
そして、そのカヤックと水力学の話.....、そんな本があるなんて、いい話ですね。とてもうらやましく思っています。

Posted by: AKi : July 11, 2005 04:56 PM
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