August 04, 2005

ロマンスのR:女ハードボイルド探偵

RisforRico.jpgロマンスのR /スー グラフトン著・ 嵯峨 静江 訳/早川書房
 スー・グラフトンの、アルファベットシリーズの主人公、キンジー・ミルホーンは、サラ・パレツキーのヴィク・ウォーショースキーと並ぶハードボイルド女探偵の双璧だ。「アリバイのA」からはじまって、アルファベット順にタイトルをつけた作品をつぎつぎに書いてきたが、早いもので、とうとうRまで来てしまい、あと残すのは8つになった。「アリバイのA」の原題は「A is for alibai」だったからAとアリバイのつながりはわかりやすい。が、つぎの「泥棒のB」は「B is for burglar」。burglarを日本語にして「泥棒のB」だが、ちょっと考えないとわからない。こんどの「ロマンスのR」は、いずれでもない形式で、一見すると「R is for Romance」なのかと思うが表紙にも書いてあるように原題は「R is for Ricochet」、見たこともない単語だったからexcite辞書で調べると
1 跳飛 《弾丸・石などが平面や水面に当たって斜めに跳ね返ること》.
2 跳飛した弾丸,跳弾. (〜ed /d/; 〜・ing //) 〈弾丸・石などが〉跳飛する 〈off〉.フランス語から
とある。読み終わった今になってみれば「流れ弾」といったところだろうと思うが、まったく関係のないロマンスという言葉に置き換えてある。キンジーが恋に落ちるストリーだからRとつながるロマンスにしたわけだ。

ハードボイルドは2つの要件を満たさねばならない。
(1)みずからに課した掟は徹底的にまもる。そのためであれば、社会的な約束事から逸脱することもいとわない。おそれない。
(2)みずから事件の中に飛び込んで事件の動きにかかわり、ときに流れを変える。
こいつが正しいと思えば、経済的な見返りがなかろうと、家宅侵入ぐらいのことはやろうと、そいつのためにまっしぐら。しかし銃は持たない使わない。かつては持っていたが、危ない目にあってからかえって銃を持たない方が安全だということになった。
アルファベットシリーズの初期のものに、クルマで張り込みをしているときには空き缶で用を足すこともあるなんてことが書いてあったが、女ハードボイルド探偵は、社会的に決められた男女の区別、ジェンダーには否定的であることはいうまでもない。P.D.ジェイムズには「女には向かない職業」というのがあるが、これは、私立探偵だった父が死んだためにやむなく探偵になる若い娘のはなしだ。もちろん、気が進まずにやっているうちに能力を発揮する。じつは彼女は探偵に向いているのであって、やはりこれもジェンダーフリーである。なにごともそうだが、多くの場合「・・・・だから」ではなく「・・・にもかかわらず」ということの方がおもしろい。「にもかかわらず」のほうが、意味のレイアが複雑なのだ。女であるにもかかわらず探偵であることは、この物語を面白くするために重要なポイントのひとつになっている。
 この「ロマンスのR」では、キンジーが恋をすることによって普通の女になり、やや精彩を欠いてしまう。そいういうところを見ても、ありきたりの女らしさからの逸脱にキンジーの魅力と力の源の一端があることがわかる。しかし、作者はそれを補うように、もうひとりの女を登場させる。キンジーはこの物語ではジェンダーの枠にからめとられるが、この一人の登場で物語としてはジェンダーフリーを補完することを忘れていない。
 このシリーズを読んでいていつも気になることがひとつある。キンジーの住むまちは、スペイン風の町並みを保存しているところをみるとサンタバーバラをモデルにしているようだ。ここは、マイケル・ジャクソンが住んでいることでも有名だが、もっと前から町並みの保存で知られている。だから、このシリーズではスペイン風の屋根瓦のことがときどき描かれるのだが、シリーズのはじめからそれを「屋根タイル」と書いてあるのが気になって、初めて気づいたときに葉書を送ったが、10年以上経ったこの本でも「屋根タイル」が使われている。roof tileは、やはり瓦のほうがいいと思うんだが。

投稿者 玉井一匡 : August 4, 2005 12:27 PM | トラックバック
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