October 24, 2005

「アースダイバー」とアースダイビング大会

 アースダイバー/中沢新一/講談社 左図はアースダイビングマップ
 中沢新一が「アースダイバー」に持ち込んだ道具は、縄文海進期のEARTH DIVING MAPただひとつなのに、ぼくたちの東京の読み取り方をすっかり変えた。アースダイビング探検隊で、その思いを新たにしたのだが、出だしでぼくは躓いた。タクシーに置き忘れたデジカメの代わりを何にしようかとあれこれ悩んだ末に、kawaさんがblogに書いていたリコーCaplioGXのコストパフォーマンスに抗いがたく注文したのがギリギリで、届くのをまっているうちに集合地点の六本木バーガーインには間にあわずに、ノアビルから合流したのだった。アースダイビング大会の隊員は、原、、松、井、それに。ことごとくわれらの風景あるいは風土を形成する文字だ。力士の醜名ならずとも、日本人の姓は地と分ちがたく結びついている。

 歩いているとゆるやかな傾斜にはなかなか気づかないのに自転車では上り下りに敏感だ。ぼくの自転車通勤ルートは、川沿いの道には上り下りが少ないだろうと考えて、新井薬師から神楽坂までの妙正寺川から神田川にのほとりをなぞっている。できるだけ川のそばを走りたいと始めたが、気持ちよく走りやすいところを探しているうちに、ちょっと離れた高台の足元の道を走るようになった。その高台は南斜面だから緑が多いし、道から川までの平らな土地は、上流から川が運んだ土砂で作ったものだろうと思いながら走るのはきもちいい。縄文時代にはまだこのあたりは海の底だったという想像はたのしさを倍加した。そういう高台のひとつに林芙美子の住んだ家がある。

 探検隊は六本木から緩やかに坂を下り、狸穴をへて白井晟一のノアビルの前を通って東京タワーにのぼり、上空から東京の地形を確認。芝丸山古墳を見たあと、増上寺の大門をくぐって焼きトンの秋田屋に漂着した。縄文地図をみれば、自転車通勤のルートは海岸のおおきな形に添って平行に海底を走っているのだが、探検隊は東京湾に触手のようにのびている岬を上り下りしてあるいた。海と陸地がたがいに食い込むフィヨルドのさまを実感するには、自転車より徒歩がいい。それほどに細かく海と陸が入り組んでいる。いいかえれば、陸地と海の接する波打ち際は、今よりもはるかに長い。ぼくたちが海を好きなのは当たり前なんだ。  東京タワーの上から見下ろすと、高層ビルのおかげで地形はほとんどわからない。ただ、樹木の多いところがあると、あそこは何だろうかと気づく。その多くは、公園でなければ神社、寺、皇室の住まいのどれかだ。モダニズムは「いま」にしか価値を置かないから、古いものに未練を持たない。上から見れば緑があるばかりだが地図をたよりに行ってみると、思いのほか前方後円墳はちゃんと残っているものの、円形の頂は容赦なく平らに削られている。公園にするからといっても、平らである必要はあるまい。おい、元の地形に恨みでもあるのか。広大な土地に巨大な構築物をねじこんでいったアメリカ文化の荒っぽいところをコピーして、変化に満ち緑豊かなこの島に貼付けたのだ。 古墳とプリンスタワーホテルの礼拝堂とおぼしき建物のあいだに、立派な看板があった。「管理責任者東京プリンスホテルパークタワー支配人」なるものによってつくられているのをみてmasaさんと苦笑した。「土地の形質を変更すること」を禁ずるという。アメリカが、大量破壊兵器の所持を他国に禁ずるようなものだ。傷つけられた古墳と裸にされた由緒ある寺と名前だけの王子さま、そして形だけのチャペルでつくられる王国の樹立宣言。やはり、アースダイバーのように泥にまみれてつくらなければいい国はできない。
「アースダイバー」とは、アメリカインディアンの建国神話のひとつ、水の中に潜ってくわえてきたもので国をつくったカイツブリあるいはアビなのだという。中沢ダイバーは、もちろん東京タワーの展望台から地上にダイブしようというのではない。意味の海にのんびり浮かんでいるとみるや、クルリと身をひるがえしては水面を切り裂いて、つぎからつぎへと嘴にくわえて水面に飛び出し、波打ち際に獲物を並べてゆく。それらは、新しくつくられたものではなくむしろありふれたものや古くさいものでさえあるのに、ちょっと並べ方を変えただけで、すっかり意味を変える。
 すでにあるものを壊そうとはしない。ただ、すでにあるものの組み合わせを変え意味を変え価値を変えるのがアースダイバーのやりかた。「縄文海進」さえ、意味の海の底にすでにあったのを見つけてきたものだ。中沢ダイバーは、最後にはこともあろうに天皇制すらくわえて浮上してきた。それを「森、縄文、南方、女性」というカテゴリーに置くと、天皇制は女性天皇の誕生をもって近代天皇制に別れを告げ、グローバリズムに対抗するアジール(あらゆる権力のおよばない避難所)として天皇はこう宣言するのだという。「わたしたちの日本文明は、キノコのように粘菌のように、グローバル文明のつくりだすものを分解し、自然に戻してゆくことをめざしている、多少風変わりな文明です。そしてわたしはそういう国民の意思の象徴なのです」と。

投稿者 玉井一匡 : October 24, 2005 01:33 AM | トラックバック
コメント

プリンスホテル側に古墳が入り込んでいるというべきか、古墳の方にまでプリンスホテルの土地が食い込んでいるというべきでしょうか。そのくせ古墳を造園に生かしているとは思えません。かわりにヘリポートもしくは庭とおぼしき丸い芝生広場なるものをつくったのは後円部で、ホテルを前方部にして前方後円ホテルにしたつもりでしょうか。ホテルをお墓に似せるってのはなかなか毒がきいていますね。上や外から見ると、高級なホテルには全く見えませんが、ロイヤルフロアってのは、980,000円/泊なんていうスイートがふたつもあるのです。http://www.princehotels.co.jp/parktower/room.html
丸い広場は、公園と書いてあるから、いつでもだれでも入れるんでしょうか。いろいろ疑問が残ります。

Posted by: 玉井一匡 : October 25, 2005 10:44 PM

古墳の情報、ありがとうございます。
たしかに、しっかりと前方後円墳の形が残っているものですね。

Posted by: AKi : October 25, 2005 07:55 PM

玉井さん、暖かい解釈・援護をありがとうございます。Mは、アースダイバーに書いてあった「M(モリビル)の時代」のMを借用したものです(^^; そう書かなくては分かりませんよね。こちらでも失礼いたしました。

Posted by: masa : October 25, 2005 10:30 AM

masaさん 相手はホテルに君臨する支配人。「たかがベルボーイが」というのとは違うんだから、しかも個人ではなくてホテルを形式上代表する抽象的人格です。失礼なんかじゃないと思います。ところで、Mって何ですか?

Posted by: 玉井一匡 : October 25, 2005 08:05 AM

玉井さん、はい、僕にはホテル勤務の経験があるものですから、それも加勢して、つい言葉が過ぎてしまいました。やはり失礼になってはいけませんでした。反省です。

Posted by: masa : October 24, 2005 10:43 PM

嵐さん:そんな由緒正しい家名であったとは知りませんでした。嵐ってのは荒らすんじゃなくて、山の風なんですか。五風十雨ってことばも初めて知りました。とにかく、今回の天候の原因がだれにあったのかが明らかになりました。次回は、くれぐれもご先祖に礼を失することのありませんように。

Posted by: 玉井一匡 : October 24, 2005 02:00 PM

(川)さん:天気がよければ、様々な問題を隠蔽してくれたのでしょうが、あの日に会ったばかりのGXは、思うように使いこなすことはできませんでした。でも愛してます。

Posted by: 玉井一匡 : October 24, 2005 02:00 PM

(山)さん:支配人の宣言は斜めになっている。「おれは水平がきちんと出ていないといやなんだ」と山さんに言われそうと思いながら、これ1枚しか写真を撮っていない。先日ハードディスクが壊れたばかりのiBookにはまだフォトショップを入れてないので斜めを修正できない。事務所に来て、やっとなんとかましになったけれど、もとの写真が正面から撮っていないから、こんなもんか。しかし、たのしく実り多い行進でありました。

Posted by: 玉井一匡 : October 24, 2005 01:59 PM

*masaさん:使い慣れないカメラのせいにしてしまいますが、魅力的な写真が撮れていませんでした。支配人ごときと、いつになくきびしいお言葉と思いましたが、そういえばたしかmasaさんの、ご自身の経験からのことばなんですね。

Posted by: 玉井一匡 : October 24, 2005 12:22 PM

嵐、別名・山風です。
ルーツは五十日足彦命、治水を司り、五風十雨の天候の好順を齎すのが本来の役割ですが、昨年の五十嵐川の氾濫やら、昨日は風邪と雨を引き連れてくるし、祖先は何故か怒らしのご様子で、ご迷惑をかけました。

Posted by: iGa : October 24, 2005 10:56 AM

(川)です。
支配人の看板、見損ねてしまいました。
ちょっと、哀れな感じもしますね。

Posted by: fuRu : October 24, 2005 09:55 AM

(山)です。やぁ、面白いですね。

玉井さんのご指摘、いろいろ考えさせられます。今回の探検をしながら。ふと「尾根を歩み、谷間に潜む」というフレーズを思い出しました。

この縄文の陸だろうが海だろうが、その地面を価値に換算し、その市場価値を重層化させていくという手法、最新の高層ビル群の論理をいつまでも続けられるのだろうかと思いました。私は最後のイベントに心急かれてプリンス支配人の立て札を見落としましたが、ご自身の罪状を並べ立てているようで、滑稽な代物でありますね。

Posted by: AKi : October 24, 2005 06:53 AM

玉井さん、こんばんわ。玉井さんがおっしゃるように、僕も、いつもなにげなく眺めていた風景のなかに海面や森が見え隠れするようになり、楽しさが増しました。すっかり中沢さんの影響を受けまくっています。
しかし、すでにプリンスからMの時代になっているというのに、たかだかホテル支配人名義で「土地の形質変更禁止」札を立てているのには、僕もあきれてしまいました。玉井さんは「人間[日本では近代のみ]だけが自然を自分に適合させてきた」と常々おっしゃっていますが、あの立札には、そこから生まれた人間の傲慢さ、そしてその傲慢さすら忘れた更なる傲慢さを感じました。無神経というのでしょうか。彼らこそアースダーバーを読んで、発想の転換期であることに気づく必要がありそうですね。

Posted by: masa : October 24, 2005 04:14 AM
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