November 06, 2005

ホームワーク

homework.jpg ホームワーク/ロイド・カーン/川村喜代子訳/ワールドフォトプレス

「SHELTER」をつくったロイド・カーンの「HOME WORK」日本語版をワールドフォトプレスの今井さんが送ってくださった。「シェルター」はモノクロだったが「ホームワーク」は大部分がカラーなので、ずいぶん印象が違う。前書きには、この本をつくるまでの経緯が書いてある。1973年に「シェルター」をつくったあと建築以外の本もつくったが、その間もつねに建築をつくることや建築を作る人々に関心を持ち続け、写真を撮りインタビューをした。それで30年の間に山のようなインタビューの原稿と写真が蓄積された。編集のマスタープランもなく、はじめはどんな本にするかも決まらないままに、1ページずつ作ってゆくうち徐々に本ができていって、それが進むごとにどんどんはかどらせたんだという。

 「シェルター」がモノとしてのイエに重点があったのに対して、「ホームワーク」は住み手、多くの場合は同時に作り手でもあるひとたちとイエの関わり方に重点が寄っているようだ。だから、文章を読んでストーリーを知ったほうがおもしろい。その意味でも日本語版がありがたい。正直なところ、英語版では読まなかったところを読むようになるから、写真の伝えるものが変わってくる。
 このイエたちは、その作り手が住み手と同一だから設計図なんてものにもとづいてイエを組み立ててゆく必要がない。材料は、周囲にあるものを使う。自分で住む、また変えてみる。そんな風にして、そこで生活しながら作ってゆくうちに、どんどん魅力を増していったものたちだ。だから、この本の作り方も同じようにしてマスタープランをもたず編集が進められたのだろう。ロイド・カーンは、かつてジオデシックドームのとりこになって、みずからもいくつかのドームをつくり、「ドームブック」を出版したほどだったが、のちに「ドームブック2」を絶版にし自分のドームは売り払い、「シェルター」ではドームを否定した。「ドームブック」は、文明をはなれてコミューンをつくる若者たちにとても大きな影響を及ぼしたことを思えば、それにはとても大きな決断とそれをせずにはいられない大きな理由があったはずだ。
 「シェルター」と「ホームワーク」のやりかたは、その土地にあるものを使って住人が自分の手でつくり、周囲にとけこみ、あまり費用のかからないイエ。つまり、そこに生活する人と、その場所に固有のものを大切にする。
そういう立場に立とうとすれば、普遍的なイエとしてはドームを否定しなければならなかっただろう。球形の空間は間仕切りや増築がむずかしいと「シェルター」に書いていたが、それよりも大きな理由がある。どんな場所に誰が住んでも球という同じ形体をつくろうという考え方は、それぞれの固有の環境と条件を大切にする立場とは相容れない。それは、地球上のどこもかしこも同じもので覆い尽くさずにはいないグローバリズムのわがもの顔と通じるところがある。
 ところが、「ホームワーク」の表紙の62枚の写真を見れば、球形のドームこそないが床の平面が円形のイエは少なくない。個人的な好みとしては、いまでも実はバックミンスター・フラーのドームが好きなんじゃないか。ぼくだってロイド・カーンの考え方には賛成だし好きだがフラーが好きだし尊敬しているもの。
この本の中で、ところどころイエの本を紹介しているが、そこに「小屋の力」や「シェルター」「Tiny House」も含まれている。巻末のクレジットには、使ったハードウェアとしてMacのG3とG4、ソフトウェアはQuarkExpress, Photoshop, Wordなどがあげられている。クレジットの少し前のページには、樹木に囲まれて木造の建物群が散在している上空からのイラストがある。この本を作った本拠地シェルター本部だ。インターネットとMacを道具に、こういう環境の中でこの本が作られたのをみると、Macやインターネットが、そもそも何のために作られたのかを再確認する。ぼくも少しだけ翻訳のお手伝いをしたので最後のページの一番最後にひっそりと「Special Thanks to Kazmasa Tamai」と書いてあるのがなんだかうれしい。

投稿者 玉井一匡 : November 6, 2005 04:10 PM | トラックバック
コメント

栗田さんが、ロイドカーンの人間とその生き方とそれにもまして本のつくり方に興味をひかれるのは、とてもよく分かる気がします。といっても、栗田さんももっと面白いことをやっていらっしゃるとぼくは思いますが、コメントを読んで、そうだったと思い出したことがありました。カーンのサイトをリンクさせようと思っていたのに、まだやっていなかったのです。見てもいませんでした。このエントーリのカーンの名前にLLOYD'S BLOGを、「シェルター本部」というところにSHELTER PUBLISHINGを貼りつけました。まだでしたら開いてみてください。これを見ると、健康や身体に関連する本がずいぶん多いのです。たしかに、自分自身で直接に世界とは何かを知りたいと思えば、身体が出発点だと考えるのは当然かもしれません。
ドームのことを書きながら、ぼくはもちろん栗田さんとジオデシックドームのことを思い浮かべていたし、blogってのは毎日書くものだと栗田さんがいわれることを秋山さんから伝え聞いていましたから、ときどきしか書かない僕は、しょっちゅうそれを思い出します。ぜひゆっくりお話ししたいのは同感です。お聞きしたいことがいっぱいあります。

Posted by: 玉井一匡 : November 11, 2005 08:54 AM

「シェルター」日本語版、この本がきっかけとなり、私は監修者である玉井さんの存在を知りました。
正確には後から秋山さんに教えていただいたのです。
日本語版を購入したのはオリジナルを昔買っていたからで、それ以前には当然ですがドームブックも読んでいました。
今回の「HOME WORK」、編集作業のしかたを知って少し憧れました。
気づかないうちに貯まってしまう自分好みのデータスクラップに、インターネットで自分がロイド・カーンと同じような作業をしていることを認識しました。
玉井さんとは、いつか、ゆっくりお話しできる時間がほしいです。

Posted by: 栗田伸一 : November 10, 2005 11:17 AM

ありがとうございます。でも、ほんとに高いですよね。ぼくだったらずいぶん躊躇しちゃいます。コスト÷見込み部数の結果なのでしょうが、カラー写真が多いからコストがかかり、高くなるほど部数は少なくなるという、循環なのですね。それでもこういう本をつくろうという心意気を、ぼくはいいなと思い、HowBuildingsLearnにも期待しているのです。
このエントリーの文末に、Macとインターネットのことをちょっと付け加えました。

Posted by: 玉井一匡 : November 6, 2005 08:47 AM

シェルターで玉井さんが本書「ホームワーク」について言及されておられ、初めて知りました。
amazon に注文したので、後ちょっとで手に入るはずです。
とても高価なので、びっくりですが、まぁ、いたしかたない、というところですね。
楽しみです。

Posted by: AKi : November 5, 2005 08:24 PM
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?