January 13, 2006

行列するたい焼き


 松戸駅のそばに人気のたい焼き屋がある。きくやという。昨年、しごとの打ち合わせで松戸に来たときに寄ってみたら10人ほどの列ができていた。客の前でつくったものを売るという店は、このごろ少なくなってしまった。殻々工房のエントリーでも同じことを書いたが、ものをつくって売る、あるいは加工や修理する店をshopといい、商品をいろいろ置いて、それを売るのがstoreなんだというが、つくる、運ぶ、売るがみんな分業になりそれぞれが大規模になって、作るところが人目にふれないのが普通になった。それだけに、手打ち蕎麦屋やたい焼き屋のような店は、作るところを見せるのも商売の一部になっているから、待つのも楽しみのうち。大きなマスクをかけた小さな女の子がぼくの後ろに並んだので、ほら見てごらんと言ってガラスの前に立たせてあげたら、壁のわずかな段に足を引っ掛けてずっとガラスの中を一生懸命に見続けた。その調子だ。
 四谷の「わかば」は、ひとつひとつはさみを使ってバリを丁寧に切り取るし、尻尾まであんこが入っている。安藤鶴夫がそれを誉めたことがあって、すっかり有名になったのだが、それにひきかえこの店の鯛焼きは型からこぼれた皮のバリを、ほとんど取らない。ワンロット6匹の間をつなぐバリに、千枚通しのようなものをサッと走らせて切り離すだけでまわりにはバリがいっぱいついたまま。尻尾にはあんこがない。ここの大雑把もいいなと思いながら、行列を昇進したときにおばさんにきいた。
「ひとつながりでも売ってくれますか?」
「いいですよ。たまにそういう人がいらっしゃるけど、容れ物がないからね」
ここまでは昨年のことで、be-eaterにエントリーした

今年も打合せで来たついでにのぞいたが、今度はamazonから本を送ってきた段ボールの箱がある。
十数人の行列の先頭に来るとたずねられた。
「いくつですか?」
「6匹を、ひとつながりのままほしいんです」
「?????」
気難しそうなおじさんが焼いている隣で黙々と袋や箱に詰めてくれるおばさんは、ひたすら怪訝な表情にもぐり込んだ。ぼくは体勢を立て直してもう一度。
「つながっているのを切り離さないでそのまま。二つにたたんでこの箱にいれてください。こうやって平らにして持って行きますから」
「?????」はまだおばさんを包んでいる。だが、おじさんはやっと分かって、笑顔を垣間みせた。箱を受け取るとおじさんは、はさみを取り出して紙袋を切りひろげ段ボールの中に敷くと、アルコールのスプレーをかけた。そこまでしなくてもいいのに。
「手数をかけてすみません」 「いや」といって、また笑顔を見せた。古新聞でくるんで、ハイといってわたしてくれたっていいのに、保健所がうるさいんだろう。120×6=720円を払い、持ち帰ってから折りたたんだやつを開くと、鯛たちはちゃんとひとつながりの行列をつくっている。温めようとして鯛焼きを持ち上げると、アルコールを吹き付けられた紙には、かすかに「たい焼きの魚拓」ができていた。

投稿者 玉井一匡 : January 13, 2006 10:31 AM | トラックバック
コメント

それは。残念でした。最後のひとりだったんですか。そういえば思い出しました、ぼくのときは、最後ではなかったけれど、そのロットではもうみんな切り離してあったんで、それをつぎの順番の人を先にゆずって、ぼくはつぎの新たなロットが焼き上がるのを待ったのでした。

Posted by: 玉井一匡 : February 27, 2006 02:55 PM

この週末
僕もこのたいやき、ゲットしてきました。
寒かったああ。
でも、僕の番で4匹しか残っていなかったので
6匹つながりではありませんでした。

Posted by: fuRu : February 27, 2006 02:42 PM

そうなんですkomachiさん。とはいえ食うためには離さぬわけにはゆかず、やむなく切って食べてやりました。アンツルが「わかば」のたい焼きをほめたら、いや甘いものの後に食べるために、尻尾には餡がない方がいいんだと論争を仕掛けた人がいたのを、大きなバリを食べながら思いました。シャリの大きい寿司という感じでもありましたな。

Posted by: 玉井一匡 : January 17, 2006 01:16 AM

美味しそうな鯛焼き。はみ出したバリも旨そうですな。ナカオチというところかな。でも離してしまうのがもったいない感じです。

Posted by: komachi : January 16, 2006 04:07 PM

GG-1さん
masaさんのところで、コメントを拝読しているんで、はじめましてという感じではないですね。この子の一所懸命さがいいですよね。先日、NHKの「氷壁」のドラマでロッククライミングをみながら、この子を思いだしてしまいました。ぼくはスクリーンセーバーに食べ物の写真が次々にでてくるようにしているんですが、この写真もそのなかに入っていて、いつもうれしい気持ちにしてくれます。順番が回ってくるまで、十数分あったでしょうが、この子はずーっとこうやって見ていました。

Posted by: 玉井一匡 : January 16, 2006 09:50 AM

初めまして
何度か眺めさせて頂いてましたが、余りに面白かったのでコメントを入れさせてもらいました
つながった鯛焼きがなんともいえず良いですね
鯛焼きもいいのですが、この爪先立ちで一生懸命に覗き込んでいる女の子もまた可愛らしい。
思わず微笑んでしまいます

又お邪魔致します

Posted by: GG-1 : January 16, 2006 04:58 AM

neonさん
ありがとうございます。たい焼きで魚拓を作っちゃうという着眼に、ぼくはまいりました。記録を残すだけなら、もっと正確な方法がいくらでもあるけれど、わざわざ遠回りして魚拓をとったおかげで、ぼくたちの想像力が刺激される。
たい焼きもさることながら、わずかな出っ張りに手と足をかけてガラスの中のたいやき作りに見とれる、この女の子の様子を見ると、きっと魅力的なおとなになるだろうなと、写真を見るたびにうれしくなるのです。で、この写真を始めに置きました。

Posted by: 玉井一匡 : January 14, 2006 02:21 AM

アマゾン見ました。これまた可笑しな本ですね。こんなものまであるとは。玉井さん色々なことをご存じですね。それと、いつも思うのですが、文章が一編の小説のようで素敵ですね。
思わず何度も読み返してしまいます。

Posted by: neon : January 13, 2006 03:54 PM

neonさん
そういえば、本屋で「たい焼きの魚拓」というのを見たことがありました。38種類のたい焼きの魚拓とそれについてのお話が書かれている、なかなか素敵な本だったのですが、買おうか迷ったあげく買いませんでした。アマゾンのサイトで、いくつかの魚拓の実例が見られます。
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4533040292/qid%3D1137131565/503-5168910-3251126

Posted by: 玉井一匡 : January 13, 2006 02:56 PM

これはまた何とも可笑しく愛らしい、まるで落語の世界のような「つながり鯛焼き」ですね。眺めていると、だんだん「壮観」な感じに見えてきます。これを箱に入れて持ち帰り、カメラに納めておられる玉井さんをつい想像してしまいました。「魚拓」もはからずもできていたとは、いやはやオチまでついて。根津にも鯛焼き屋はありますが、やっぱり「ばり」ははさみでとっていました。

Posted by: neon : January 13, 2006 02:23 PM

 たい焼きの型がネガでたい焼きはポジ。で、もう一回反転したのはやはりネガなんでしょうか。ところで、ニコンがフィルムカメラから撤退するそうで、何年かしたら写真の世界からはネガがなくなっちゃうわけですね。

Posted by: 玉井一匡 : January 13, 2006 12:46 PM

お~凄い、天然のネガ・ポジの世界ですね! ポジ鯛が生きているようです。鯛焼きの鯛が、こんな可愛い表情してるなんて知りませんでした。

Posted by: masa : January 13, 2006 12:37 PM
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