April 11, 2006

REVOLUTION in The VALLEY:サインパーティー

 REVOLUTION in The VALLEY/Andy Hertzfeld著/柴田文彦訳/オライリー・ジャパン発行

  ぼくの知っている限り歴史上もっとも素敵な箱・初代Macintosh、それを若者たちがつくりだした過程が108のエピソードで再生されているこの本は、どこを何度くりかえして読んでも楽しい。ぼくにとっては、第一世代のMacは、とうとう自分のものにすることがなかったミッシングリンクだが、この本を読んだおかげで、第一世代のMacも、やっとぼくのものになった気がした。
Apple Ⅱ plusは、AKiさんが(勝手に)注文して宅配までしてくださったおかげで僕の機械になったのだが、そのあとの第一世代Macは、あんなにも魅力的なやつなのに、優柔不断のせいでとうとう買えなかったのだ。
 この本のことはaki'sSTOCKTAKINGに紹介されているのを見て知ったのだが、ここに書かれている数々のエピソードは、そういうぼくをMac誕生にいたる物語に参加させてくれた。だから、われわれ素人にはとてもむずかしい話もあるけれど、それでも楽しく読むことができる。
 ところで、どれかひとつを選ぶとしたら、きみはどれがいい?と誰かにきかれたらぼくはどうしようかなと考えてしまった。どれも捨てがたいので随分悩んだ末に「Signing Party」というエピソードを選ぶことにした。(この本では、固有名詞は英語のまま書かれているので、ここではそれに従うことにした。おそらく、本のレイアウトを原書と同じにするために、文字数を減らしたかったのだろう。それでも文字が小さくて、眼鏡なしではとても読めないんだが。)

 このエピソードの内容はこんな具合だ。
 Macは芸術作品だと、つねづね言っていたJobsが、Macチームのメンバーのサインをケースに残そうと思いついた。ここでいうケースとは段ボールの箱のことじゃない、「筐体」なんてばかにむずかしい日本語をあてられる、Mac本体の外皮のことだ。大部分の人間が見るはずのないケースの裏側なのにサインを残そうとするには、まず金型に刻み込まなければならないのだ。それは1982年2月というとき。1979年11月にはじめの3人の男たちが、そのうちのひとりJef Raskinの自宅にあつまってMacのスタートを切らせたときから2年と少し、1号機が完成する1984年1月までは、あと2年という、スタートから完成までのちょうど中間の時期だ。金型というのはもっとも製作時間のかかるものなのだそうだ。
ミーティングのあとでサインパーティーが開かれた。Jobsの指名で、初めにBurrell Smith(はじめの3人のひとり)がサインをしたあと、チームの35人が製図用紙にサインを書き込み、最後にsteve jobsが小文字でサインを加えるまで40分間。その場にいなかったBill Atkinsonほかの数人が後に加わったが、製作の過程で少しずつ名前が減って行った。この本の表と裏の表紙の見返しにサインの写真があるが、これがいつの段階のものかは、書かれていない。

 Jobsが、Macを芸術作品と言ったのは「最終目標は、競合する相手を打ち負かすことでも、多大な収益を上げることでもなく、可能な限り最高の仕事、それをわずかでも超えるような仕事をすることだった」と書かれている。並外れた才能に満ちたチーム、過酷だが適切な目標を設定し彼らに要求したJobs、この少人数のチームは、わずか128Kという、いまなら携帯電話の写真一枚にも満たない小さなメモリーの中で、helloの挨拶から始まり、絵を切り抜いてみせ、アイコンをゴミ箱に入れるとフロッピーディスクを吐き出した。自分は持っていなかったからなおさらそれは、ぼくにとってうっとりするような、すてきなふるまいだった。マウスを見たのも、そのときが初めてのことだった。
 この本の著者、Andy Hertzfeldはインタビューの中でこういっている「初代Macに比べると、ハードウェアの性能は飛躍的に向上しました。夢のような話です。これに対して、ソフトウェアにはがっかりさせられます。Macintoshの登場以降、基本ソフトウェアはのろのろとしか進化していない。ユーザビリティの面では、後退したといっても過言ではありません。」と。
 ハードウェアが進歩したといえ、それは処理スピードが早く、容量が大きくなり、画像の密度が増え画面が大きくなるという、量的な拡大の結果として数値的な質が向上したにすぎない。パーソナルコンピューターは、あの時期に成し遂げたものの余禄で成長しているのではないか。だからこそ、この本に登場するMacチームの成し遂げたことはRevolutionと呼ぶにふさわしい。現代のデザイン、建築、思想、そして科学は、20世紀初頭の奇跡的な時代に作り上げられたもののおかげで、いまも世界の多くは動いている。ものごとの動きは、短い変化の時期と長い平穏あるいは停滞の時期がくりかえされるものなのだ。

 ぼくたちはMacを「うちのパソコン」とは言わない。「ぼくのMac」と、固有名詞のつもりで呼んでしまう。ユーザーインターフェイスのありかたが魅力的だから、Macを「種」としてではなく「個体」として感じてしまうからにちがいない。人間が「いい奴」かどうかは、ひとと接するあり方、つまりインターフェイスの能力をいうようなものだ。Jobsが「Macは芸術作品なんだ」というのも、「Macを、かけがえのない命を持った生き物のようにしよう」ということではないか。・・・・いいやつとは言いがたいJobsだが。
ところで、この本を読んだ他のひとたちは、どのエピソードを選ぶかな。

■追記
*AKiさんは、これを選ぶそうだ: REVOLUTION in The Valley:角丸長方形だらけ!
*iGaさんは、コメントで「USフェスティバル」がいいと表明:US Festival/wikipedia
A・ハーツフェルドが語る「Macの誕生と、その他の物語」/CNET Japan

投稿者 玉井一匡 : April 11, 2006 10:22 PM | トラックバック
コメント

AKiさん  これのおもしろさに気づきませんでしたが、読み返すとほんとうに面白い。Billの才能と、Jobsの「いやなやつだけどいい指摘」ぶりがいっぱいで、いかにもHow Mac Was Madeが伝えられていますね。これの面白さにきづかないようじゃ、Billに声をかけてもらえないなあ。きっと、字が小さくて、眠い時で注意力が散漫だったんですと弁解をしておきます。

Posted by: 玉井一匡 : April 12, 2006 02:54 PM

iGaさん  あれを読むと、Mac草創期のヒーローが純情可憐なオタク少年に見えて微笑ましいし、ロックの連中の突っ張りぶりが、臨場感ありますね。ぼくも電車の中で読んでいて、ひとりでニヤニヤしていました。事務所について、これを読んでごらんとすすめて読ませましたが、あまり受けなくて拍子抜けしました。同好の士がいらしてうれしいなあ。

Posted by: 玉井一匡 : April 12, 2006 02:35 PM

やぁ、文字が小さくて.......大変でありますですね。
私は「Round Rects Are Everywhere !」を選んでエントリーに仕上げようとしています。iGa さんもエントリーしてくださいませ。

Posted by: AKi : April 12, 2006 02:30 PM

僕はウォズが主催した「US Festival」の話が面白かったなぁ。
プロモーターのビル・グラハムがとても嫌な奴だったり、バレル・スミスが会場からつまみ出されて、ひどく落込んでしまったりとか、伝説だけで知っていた「US Festival」の裏側が見られて興味深かった。

Posted by: iGa : April 12, 2006 01:54 PM

ぜひ、やってみてください。おいしいものばかりで、ぼくはどれを食べればいいのか分からないという気分でした。みなさん、だれがどれを選ぶのか、とても興味があります。

Posted by: 玉井一匡 : April 12, 2006 10:58 AM

>この本を読んだ他のひとたちは、どのエピソードを選ぶかな。
選ぶのは大変だけれど、私もやってみよう。

Posted by: AKi : April 12, 2006 10:41 AM
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