April 19, 2006

一輪のハナニラ


 刑部アトリエの前庭には、ヤマブキやシャガやニリンソウ、フッキソウなどもあったのに、うっすらと青い花は取り残されたようでとりわけ印象深かったのだろう、ロワジール別館漂泊のブロガー2Roc写真箱などに写真や文章があった。この季節には、道ばたなどでよく目にするのに僕はこの花の名を知らなかったのだが、おかげでハナニラというのだと知った。ああそうかなんて、記憶のすみにあったのをつまみ上げて思ったのだが、それは誤解で、ぼくの知っていたハナニラは食べられる別物だ。食用のニラを切らずにおくと、まっすぐに延びた茎が先端に小さなネギ坊主のようなつぼみを付ける。この状態のやつを集めてくると、ニンニクの芽のように炒めればニラの葉よりもむしろうまい。と、ぼくは思っている。葉っぱよりも数がすくないから、商品になりにくいのだろうが、中華街などでは束ねて売っていることがある。さらにそのまま放っておくと、そのつぼみの包みをやぶって四方八方に伸ばした手のそれぞれの先に水仙のミニチュアのような花(写真はBotanicalGardenより)をつけるのが愛らしいのだが、切り口から匂うのが難点だ。じゃあ、観賞用のハナニラも、その名にふさわしい匂いがするのだろうかと茎を折ってかじってみた。なあるほどニラの一族にちがいない。
これは最後の晩餐。キリストが「これは私の肉、私の血」だと、弟子たちにパンとワインを振舞ったように。

 とうとう門だけを残して、刑部アトリエはあらかた解体されてしまった。その、大谷石の擁壁の上に咲いていたハナニラなのだ、これは。そういえば、林芙美子記念館の池のまえに立って鯉に餌をやっていらした方が「わたしはこの隣に住んでいるんだ」とおっしゃったことがある。「おさかべさんですか?表札にありましたが」とうかがうと「よくお読みになれましたね。だいたい部という字がついている姓は専門職の帰化人が多いから、きっと先祖は朝鮮渡来の首切り役人だったんだろう」などと言われる。「いや、検事だったんじゃないですか」などと言ったのを思い出した。
咎なくて死す刑部アトリエのために、ぼくはそのハナニラを一輪だけ連れてきた。一輪だけの花があるときに、事務所では愛用の水滴に水を入れて小さな穴に茎を挿す。この水滴は、魚の形をしている。・・・・サカナはキリストのシンボルだったっけ。このあとイエは復活するのだろうか。

投稿者 玉井一匡 : April 19, 2006 08:17 PM | トラックバック
コメント

鈴木薫さん そういうことでしたか、わかりました。しかし、ぼくもそそっかしい方なので、あまり自分を信用していませんので、はじめの写真を代えたので、そのときになにかしてしまったかとも考えました。おかげで、レーモンドの教会のことなどを付け加えるつもりだったのを思い出しました。とにかく、コメントありがとうございました。

Posted by: 玉井一匡 : April 26, 2006 06:42 PM

すみません、私がネボケてました!
「続きを読む」 という形式に馴れないもので……。
今回は後半部を読まずに、前に見たはずの文章がなくなっているような気がしておかしなことを書いてしまいました。
最初に読んだときは、相対的にクリアーな頭だったので、ちゃんと理解できていました。
玉井さんに言わずもがなの説明をさせてしまって申し訳ありません。

Posted by: 鈴木 薫 : April 26, 2006 04:23 PM

鈴木さん はじめから「咎なくて死ぬイエ」ではなくて、「咎なくて死す刑部アトリエ」にしていたと思います。咎なくて死す刑部アトリエと書きかけて、そういえば刑部さんが「先祖は首切り役人」という話をしていらしたのを思い出し、林芙美子記念館のエピソードを加えたのです。で、調子に乗ってイエス、サカナとつなげて、さらに図に乗って、春だから復活とイエ(ス)をつづてシャレたという次第です。
ところで、軽井沢の聖パウロカトリック教会を設計したレーモンドは、新潟県・新発田カトリック教会の十字架に、鉄筋を曲げて作った魚をつけました。それを思い出しながら書いていました。二つの教会のアドレスは、下記の通りです。
http://www.office-c3.com/architecture/kobetsu/koshinetsu/1934paul_church/paul_church.html
http://www6.ocn.ne.jp/~c.shi.ch/newpage1.htm

Posted by: 玉井一匡 : April 26, 2006 03:56 PM

あれ、咎なくて死ぬイエってよかったのに、本文から削ってしまわれた?
(お二人のやりとりを見て、一瞬よりも長く、「ス」がないってなんだろうと思いまどいました。)
もしかして玉井さん、シャレの意図はなかったんでしょうか?

Posted by: 鈴木薫 : April 26, 2006 01:29 PM

GG1-1さん いやあ、馬鹿な話ですが、「ス」がないって何のことだろうなんて、一瞬ですが思ってしまいました。分かってもらえるかな、なんて思いながら書いていたのに。あの花や木たちはどうなるんだろうかと思ってしまいますが、シートがなくなってしまってもまだ植物と擁壁には手がつけられていないところをみると、もしかしたら残されるかもしれないと、かすかな望みをつないでいます。

Posted by: 玉井一匡 : April 23, 2006 11:45 PM

建造物に咎はありませんね
人間の都合で左右されるもの
門を残して、こうなりましたか
一輪だけ連れ帰った気持ちも判る気がします

「ス」が無いのに最初気付きませんでした

Posted by: GG-1 : April 23, 2006 07:02 PM
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