April 23, 2006

駒ヶ根の桜

  
信州、駒ヶ根に行った。4月20日の朝、厚い雲と雨を覚悟で東京を出発したのに、寝不足気味のぼくは、運転する塚原に申し訳ないが途中から助手席でぐっすりと眠りつづけ、駒ヶ根の少し手前で目を覚ましたころには霧が晴れて、連なる山並みがうつくしい。駒ケ根は、おそらく天竜川の流れがつくった伊那谷の細長い平地にあって東西を山並みにまもられている。
「エッセンシャルタオ」の著者である加島祥造氏とご子息の裕吾氏ご夫妻にお会いするためにだったが、この日になったのは、ちょうど桜が満開でみごろだとうかがったからだ。帰りがけに、教えていただいた駒ヶ根と高遠のさくらを巡った。この日が特別でもあったのかもしれないが、駒ヶ根と高遠は桜のあり方については、対照的だとぼくには思われた。

 雨上がりの青空と満開の桜、しかも雨のあととあって人出も少ないという思いもかけぬ幸運な巡り合わせで、駒ヶ根の桜はあたりの風と光さえ、さくらに染まっているようだった。4、5人が一眼レフを持って写真を撮っていたが、古寺の山門をガレージのようにしてジープタイプの消防ポンプ車が待機してるのがかえってのんびりとして見えた。フロントグリルの消防署のしるしは、ちゃーんと桜印なのだ。
 門の脇には、まるで岩の固まりのような太い幹からじかに枝をのばす枝垂れ桜の古木があって、そのまま、すでに加島祥造氏の水墨画のような姿をしている。ここの桜はそれぞれの木の一本ごとに魅力的だ。もうひとつの桜は、田んぼの中にのこされた墓を覆うようにしてただ一本立っていた。ここにも三脚を構えた人たちが3、4人いたので、ぼくはあぜ道に腹這いになって、枯れ草で人影をかくした。桜の背後には、仙丈ヶ岳だろうか、白い雪が雲と溶けあうようにして手前の山の間から顔を出している。そもそも色の淡い桜は、光のありかたや環境と背景、そしてまわりにいる人間の様子をそのままに吸い込んでしまう。あるいは吸い込まれてしまうのだろうか。
高遠はまちの真ん中にある城跡を埋めつくす桜が遠くから美しいが、近くにゆくと人出や屋台の数が多くて、花よりもむしろにぎわいを楽しむ場所になっていた。人が来てくれなければ観光は成り立たない、しかし人が多すぎれば、その場所のもっているよさを損なってしまう。期間がきわめて短い桜は、短期集中型の日本の観光地の典型だから、ひとにきてもらうことと気持ちよい場所であることを両立できるかというテーマを検証するには、高遠はとてもいいまちだと思った。が、それはあとのことで、駒ヶ根と比べると人出が多すぎることに、やや落胆してしまった。とはいえ、駒ヶ根でも、はじめに寄ったお寺は桜の名所で、観光バスやテレビ局のバスまで来ていたので、ぼくたちは車さえおりなかった。そういうぼくたちも、じつは環境汚染の一部なのだと考えると、文句を言えた筋合いではないのだが。

投稿者 玉井一匡 : April 23, 2006 12:20 PM | トラックバック
コメント

追記
新潟に来たので、いつも農業や園芸のことを教わる作一さんに、しだれ桜についての疑問をたずねた。矠一さんは自分の庭にも、みごとにしだれ桜を咲かせている。駒ヶ根の枝垂れ桜は、どうやったら、あんなに太い幹からじかに枝が出るような状態になるのか、くねくねと枝が曲がるのか、ふしぎに思っていた。
「枝垂れ桜は、ほおっておくと、枝が伸びると上でなく下に向いてしまうんですよ。だから枝を上に伸ばそうと思ったら、支えてやって、強制的に上に向かせなければならないんです」
「そういわれれば、あたりまえですね」
「そうやってつくっても、普通の木のようにまっすぐに直立させることはむずかしいので、上に向くにしても曲がりながら伸びちゃうんです」
でも、途中までの塊のような幹は、どうやったらできるんだろうか。
「あとで、写真をもって来ますよ」

Posted by: 玉井一匡 : May 2, 2006 11:29 AM

りりこさん  おひさしぶりですね。先日もコストコでりりこさんの話題が出ていましたよ。加島さんのところにうかがったのは、加島祥造氏にお会いするのと、ご子息裕吾さんの自宅改造セルフビルド作戦のためでした。しかし、父上は折悪しく風邪を召されて、声をお出しになるのさえ辛そうな状態でした。にもかかわらず、布団の敷かれた寝室にと、お呼びくださいました。わざわざ布団の上に正座して起きてくださったのだけれど、そんな状態ですから様子を拝見するこちらも辛くて、ちょっとご挨拶をしただけで失礼しました。今回はゆっくりお話をすることができず残念でしたが、息子さんのご案内で床一面に和紙を広げられた画室を見せていただきました。もちろん画室の写真を撮ることもありませんでした。いずれ、お元気な加島祥造氏にお会いしたときには、愛読者がいらっしゃることもお伝えします。あらためてエントリーしようと思っています。
とてもうまい蕎麦屋さん、裕吾さんの現在のお住まいとオーディオセットなど、書きたいと思っているすてきなことがあります。

Posted by: 玉井一匡 : April 29, 2006 03:07 PM

おひさしぶりです。
最近加島祥造さんの本を一生懸命読んでいるところ。
なんとなくうらやましい。明晰な人、好きです。
5月の休みに八ヶ岳南麓をうろうろするのですが、
車の運転もできないので、遅い八重桜を徒歩で楽しむ暗いかもしれません。

Posted by: りりこ : April 29, 2006 11:29 AM
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