October 15, 2006

メコンの小さな橋


メコンは、その多くの部分で国境をなす。ヴィエンチャンでは向こう岸はタイという河の岸から、その中州までわたる橋がある。ぼくは、それをもう一度見たいと思っていた。決して短い橋ではないのに幅がせまくて、歩行者か自転車、せいぜいバイクやリアカーが渡れるくらいの、すこぶるチャーミングな橋なのだ。これほど魅力的で、いまもちゃんと使われているのは、それほどないだろう。
以前に、「夕日のレストランと橋」というタイトルでエントリーしたことがある。もういちど夕日を見たいと思っていたのに昼間に行くことになったけれど、おかげで日暮どきには見えなかった橋の様子がよくわかる。レストランはブッフェ形式だからぼくは途中で席を立って店を抜け出し橋を歩いた。この橋とレストランをじっくりと見て、ぼくはあらためて好きになった。橋からレストランを見ると、木造をそのままコンクリートにしたような華奢な柱に支えられたデッキの上に、白いテントが浮いている。あんなところで飯を食っていたのかとあらためて気づいた。

 ユーモラスな形をした橋脚はコンクリートなのにとても細いトラスでつくられている。4本の柱を立てた前後に、河の流れに耐えるよう1本ずつの柱を加え、それらを結んでつくられたトラスは、柔らかい地盤のうえをカンジキをはいて歩くようにしている。地盤は、乾季には土が見えるが雨期には水没するおそらくやわらかいところだから、すそ広がりにして底面積を大きくしてあるのだろう。その上に載る橋そのものは、幅がおよそ2mで、アングルをつかって高さ1mほどのトラスを架け渡してそれを手すりにしている。床は3cm×20cmほどの厚さでふぞろいな長さの板を釘止めしている。釘がゆるんでいるからなのだろう、バイクや自転車が走るとビブラフォンさながらにカタ・カタ・カタと音をたてるのだ。
橋の下では、耕耘機をつかって畑を耕していた。雨期になると河が運んでくれる栄養豊富な土で覆われているのだろう。橋のたもとには軍鶏を放し飼いにしている。いまにして思えば、これはいい農業だと思うが、むかしは日本だって石油や金を費やすのではなく、大部分がこんな風に頭をつかって自然を利用して働いていたはずだ。
この近くの中洲にある、ヴィエンチャンにしては高層の大きなホテルは中国資本でつくられたそうだが、あたりの景観にまったく合わせようという気がない。意識をしたわけではないのにぼくは一枚も写真を撮ったことがなかった。この橋とそのたもとのレストラン、そして中国資本のホテルを見ていると、現在のラオスの状況が思い浮かぶ。しなやかに、環境にあわせておだやかに生きる人々と国を、力まかせに大きさと経済の力を見せつける大国が、それを変えてしまおうとしている。

*  *  *  追記   *  *  *

・左の写真:前後のトラスが重なって分かりにくいが、橋脚の上でトラスが分かれている。上弦材の高さの中央より少し高いところをアングルで水平につないでいる。手すりが低くなっているのだ。
・左中央寄りの写真:床の板が釘止めしてある。右のトラスの外を走るパイプは給水管だろう。橋脚の上には、電柱が立ち電線を支え街灯がついている。電気、水道、人、物資、みんなこのすてきな橋の上をわたるのだ。
・右中央よりの写真:トラスの下弦材の上にチャンネルを直交方向に向けて乗せ、少し飛び出させている。その先端の上端を一部切り落とし、そこにアングルの斜め材を取り付けて、トラスが倒れるのを防ぐ。さらに、このチャンネルの上に木製の根太を乗せて、床の板を釘止めしている。
・右端の写真:注脚の真上から、手すりの外で下を見た。コンクリートの角がきれいに直線になってそろっているのを見ると、これはプレキャスト・コンクリートだろうと思われる。
*AKiさんから、レストランも軽そうだがなんで作られてるんだろうという疑問があり、写真をすこし大きく見られるようにした。ぼくにはRCに見えるのだが。
橋脚の、上流側つまりはじめの写真でいえば右側は、水とぶつかる、船でいえば舳先にあたるところだが、ここだけはトラスのもっとも低いところの三角は穴が開いてなくて、コンクリートの面が作られている。水をスムーズに流そうとしたのだろう。
ビエンチャンの水道局に勤務するアポロ君という土木技術者と仲良しになったので、橋とレストランの構造と工法について、近いうちに質問をしてみようと思う。彼は、佐賀大学の大学院で5年間学んで、いまは公務員だが、先日は通訳をしてくれた。五十嵐さんの注目された給水塔についても彼なら面白い話をしてくれるかもしれない。

投稿者 玉井一匡 : October 15, 2006 12:36 AM
コメント

iGaさん そうですね。ペーパーバック版があるかもと思ってamazon本舗の方をさがしたら、Typologies of Industrial Buildingsが$47.25で、BasicFormsがUsed & newだけれど from $26.98。かなり安いですね。

Posted by: 玉井一匡 : October 22, 2006 02:11 PM

ハードカバーでなければ廉価版もあります。
どこで買ったのか憶えてないけれど、僕の持っているのは29センチ四方で廉価版の「TIPOLOGIE」(1990年)です。
先月、ツォルフェライン炭坑遺跡群をネットで見てベッヒャーの写真集で見た覚えがある筈と確認の為、久し振りに写真集を見たばかりでした。
http://madconnection.uohp.com/mt/archives/001092.html

Posted by: iGa : October 22, 2006 12:26 AM

4055円か高いですよね。白黒で結構小さな本なんです。
洋書店には必ず何冊かあると思います。ゆっくり立ち読みして選んで下さい。
玉井さんは給水塔シリーズを選ぶかもしれないし。
私が買ったのも随分前です。すぐに無くなる心配はなさそうですね。

Posted by: kawa : October 21, 2006 10:21 PM

kawaさん Basic Formsでamazon.comを検索したら、4,055円。この表紙の写真も、とても魅力的な写真ですね。例によって、「あわせて買いたい この本とTYPOLOGIES Bernd Becher をあわせて買う」という項目が出て来て、合計金額は12,045円とありました。そういわれると、中身を見てからどちらかにしたいと、優柔不断なぼくは、かえって迷ってしまうばかり。名作はすぐにはなくなるまいと、執行猶予の列に加えることになりそうです。

Posted by: 玉井一匡 : October 21, 2006 04:27 PM

ベルント アンド ヒラ ベッヒャーか。
ドイツ語は分からないし、何と読むのか知りませんでした。
私も、BasicFormsって奴を持っています。
色々なシリーズがあってどれも欲しかったのですが、高くて手が出ませんでした。
たまたま洋書のバーゲンで見つけて、選びに選んで、一冊だけ持っています。
何十年かして、初めて胸のつかえが取れたようです。

Posted by: kawa : October 21, 2006 01:38 AM

iGaさん おはずかしいが、ぼくはベルント・ベッヒャーの名を知りませんでした。この給水塔にも、橋ほどには興味をもちませんでした。そこに人間が直接には感じられなかったからなんでしょう。しかし、こうして見ると、給水塔やクーリングタワーは、人間的スケールを逸脱した構築物であることにこそ、魅力があるんだということが分かります。さりとて、ダムほどには人間から離れてはいない。この橋は逆に、土木構築物でありながら人間的なスケールを感じさせるところが魅力的なのだろうと思います。べつのところにまたひとつ、面白そうなことが増えました。

Posted by: 玉井一匡 : October 18, 2006 02:18 AM

ベルント・ベッヒャーの給水塔コレクションにも屋上緑化は見つからないから、この給水塔を知ったら写真を撮りたくなるかも。
http://artphoto-site.com/story91.html

Posted by: iGa : October 17, 2006 10:29 PM

iGaさん さすがみよく見つけられますね。小出しにしているつもりはありませんが、おっしゃるように給水塔です。すぐそばからは写真を撮りませんでしたが、こんなのはあります。屋上緑化されているんです。もちろん、自然にそうなったんでしょうが。追記に、写真を見られるようにしました。

Posted by: 玉井一匡 : October 17, 2006 06:16 PM

その細さは何か、アングルによる鉄骨コンクリートのようにも見えますね。
左の上から二番目の写真の木立の向うに見える構造物も気になります。
屋根に草の生えた上水道の高架水槽のようにも、軍事的な監視塔のようにも思えますが、GoogleEarthではレストランのある川岸が低解像で確認不能、残念。

Posted by: iGa : October 17, 2006 05:26 PM

もしかしたら、こちらは木造だったのかもしれないと思って拡大してみましたが、やはりRCのように見えます。柱と梁の交点のあたりには、ジャンカのようなものもありますしね。筋交いは、あまりに細いからコンクリートってことはないでしょうが、じゃあなんだっていうことになると、スチールでしょうね。

Posted by: 玉井一匡 : October 17, 2006 04:29 PM

白テントのレストランの足はどうなんでしょうね。
これは、プレキャストっていうわけにはいきそうにはないんじゃないかなぁ。でも、こいつはメチャクチャ細いですね。

Posted by: AKi : October 17, 2006 03:01 PM

AKiさん 写真を一枚追加しました。橋脚部分の上に、手すりの低いところがあって、そこに腰掛けて下を見下ろした写真です。これを見ると、角の線がきれいに通っているところなど、プレコンのようですね。ここまで運ぶのが大変だろうなと思っていましたが、船に乗せてくればいいんですからね。

Posted by: 玉井一匡 : October 17, 2006 02:47 PM

玉井さん、詳細な写真を公開していただきありがとうございます。
細い鉄骨の橋部分、これまた細いコンクリートの橋脚部分もよく分かります。しかし、この繊細なコンクリートの骨組み、現場打ちなんでしょうか、プレキャストなんでしょうか。
プレキャストであれば、この手のものはフランスは得意としていましたね。

Posted by: AKi : October 17, 2006 11:04 AM

kawaさん ぼくの想像ですが、橋脚の下は地中梁でつなぐのではなく杭を入れてあるだろうと思うのですがどうでしょう。上の手すりは、やはりトラスで、橋脚ごとにトラスは分節しているようです。だから鉛直荷重しかかからないとして、橋脚も独立に支持される。橋脚の不等沈下はトラスのつなぎ目で吸収するのではないでしょうか。エントリーの本文に写真と説明を追加しておきますので、そちらもお読みください。
トラスの縦部材の足下には、橋に対して直角の方向にチャンネルで大引にあたるものがあり、その上に木材で根太を流し、そこに、板を釘止めしてあるのです。それが、ところどころ緩んでいるようで、バイクや自転車がゆくと、カタカタという音をさせながら走るのがとてもいいのだ。
無駄がなくて、率直で、いいですよね。

Posted by: 玉井一匡 : October 17, 2006 02:49 AM

う〜ん。カッコイイですね。
細いコンクリートも素敵ですが、脚から脚までがどうやって保っているのか不思議です。
手摺の上側は圧縮にはとても耐えられそうにないように思えます、秋山さんのいうように手摺がトラスでしょうか?
脚から脚までを繋ぐ桁というか梁があるようにもみえません。
根太の下を繋ぐ材料にテンションがかかっているのでしょうか。床の材料は何ですか?スパンの真ん中だとたわんだりしますか?
興味がつきません。

Posted by: kawa : October 17, 2006 12:53 AM

iGaさん そう、ここです。おっしゃるように、ここの集落にいく橋のようですが、集落は増水しても大丈夫なのでしょうか。NとEを前につけたら飛んで行きませんでした。あとにつけるんですね。
長さは300mくらいあるようですね。この北の方に地面があらわになっているところがありますが、これが、中国資本のホテル「ドンチャンパレス」の土工事中の現場でしょう。

Posted by: 玉井一匡 : October 16, 2006 06:36 AM

ここですね。
中洲にある村に渡る橋なんだ。
橋( 17°56'57.15"N  102°37'3.78"E)
図書館( 17°58'10.35"N 102°36'59.82"E)

Posted by: iGa : October 16, 2006 01:34 AM

AKiさん すてきな橋ですよね。鉄筋コンクリートの建物の柱梁が細いのを見るとちょっと心配な感じがします。しかし、ここは地震のないところなのだから、必要以上の強度を持たないというのは、むしろ合理的じゃないかと思い直します。
けれども、この橋の場合は、ただ軽やかで無駄がない、そして魅力的という印象が強いように思います。

Posted by: 玉井一匡 : October 15, 2006 11:09 PM

iGaさん つい一月前まで、こんなに細かい写真はありませんでした。図書館のできる前ですが。その敷地も見えるようになりました。
ところで、関係者がヴィエンチャンと書くので、ぼくもそう表記していましたが、ビエンチャンでいいんですね。google Earthで位置を指定するやりかたが分からないのでgoogleマップで指定しますが、細かい写真と荒いやつとの境界ぎりぎりにあるので岸側の端が見えませんが、細いのがこの橋だと思います。

http://maps.google.co.jp/maps?f=q&hl=ja&q=ビエンチャン&ie=UTF8&z=18&ll=17.949095,102.617658&spn=0.002587,0.006716&t=k&om=1
図書館
http://maps.google.co.jp/maps?f=q&hl=ja&q=ビエンチャン&ie=UTF8&om=1&z=18&ll=17.969053,102.616285&spn=0.002587,0.006716&t=k

Posted by: 玉井一匡 : October 15, 2006 10:56 PM

GoogleEarthはキーワードが「ビエンチャン」でアクセスできますね。
空港の近辺だけは高解像でしたが、残念ながら橋は見つかりませんでした。
ハノイは市街地の殆どが高解像で表示されますね。

Posted by: iGa : October 15, 2006 03:01 PM

すてきな橋ですね。手すり状の鉄骨トラスが構造も、木造骨組みのようなコンクリートの骨組みも、みな細くて軽くて、いいですね。

Posted by: AKi : October 15, 2006 08:24 AM
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