November 05, 2006

狛犬かがみ


 「狛犬かがみ」/文・写真: たくき よしみつ/出版: バナナブックス/1,700円

ずいぶん前に、狛犬のサイトを見たことがあるけれど、そのときにはさほどでなかった狛犬に対する興味が、この本によって目覚めさせられた。本とインターネットの、メディアとしての性格の違いにというものなのだろう。「かがみ」とは「鑑」、図鑑の「鑑」なのだ。ある世界を一望にするには、本というメディアが向いているのはたしかだ。秋山さんがaki's STOCKTAIKINGに書かれたように、石原秀一さんが送ってくださったのだが、ごめんなさい、エントリーがおそくなってしまった。前に見た狛犬のサイトは、秋山さんも紹介された「狛犬ネット」だ。
 オリエントや中国では王や神を護るものとして一対のライオンや唐獅子が置かれていたのが、日本にやって来て、唐獅子と狛犬で一対をなすようになったという。宮中のしきたりについて書かれた平安末期の「類聚雑要抄」という本に、玉座の右左に獅子と「胡麻犬」をおくことが書かれているのが、狛犬についてのもっとも古い記述なのだそうだ。中国の獅子、朝鮮の犬というわけだ。獅子の一方が犬に変えられた平安時代は、仮名のつくられた時代でもあったことは偶然ではないのかもしれない。

仏教寺院の山門に、仁王の阿像と吽像が置かれたのにならって神社には狛犬の阿吽像の一対がおかれるようになったが、それにも獅子風の形式張ったものと犬風のくつろいで親しみやすいものがあるという。漢文が公式の文書に使われ、仮名や仮名まじり文が私的な文書に用いられたのとちょうど重なるではないか。左右対称をくずすことで、肩の力が抜ける。それと同時に対比的なふたつの概念は「すべて」を表すことができる。「色」と「空」が世界のありようをふたつにわけるものであるように、「阿」と「吽」の対も世界のありようの全体を示しているのだろう。

 狛犬は親しみやすさ、とぼけた味が本来の持ち味なのに、戦争時になってつくられた護国神社のような「公式の」神社の狛犬は、力みかえって胸を張り、王宮の衛兵のように取りつく島のないきちんとしたやつなのだ。「しゃちほこばる」ということばは、城の天守で凍りついたように固まっているシャチホコの様子を言っているのだろうが、護国神社系の狛犬はそれだ。ロンドン郊外のキューガーデン(Royal Botanic Gardens)の、ドーム型のガラスの温室の前に置かれた一対の石のグレイハウンドが胸をそりくり返らせているのが、ちょうどドームの曲線と同じだなと一人で笑ったことを思い出した。
 もともと自然を神とする神社には、人間の姿をした神の像はない。神を護る狛犬を置いて狛犬の様子で間接的に神を表現したのは、おもしろい表現だ。おおかたの狛犬好きは無邪気で自由な狛犬を好むだろうが、それは、神社が戦の勝利やお国のためを誓うところではなく自然をうやまい豊穣を祈るところであることなんだと狛犬が言ってくれるからだと、この本は教えてくれる。

投稿者 玉井一匡 : November 5, 2006 08:00 AM
コメント

iGaさん キツネは抜け目がない、よくいえば頭がいいなんていうキャラクターを割り振られていますが、ベトナム人もそういうふうに聞かされていました。しかし、たった一日だけハノイを歩いたにすぎませんでしたが、なんだけっこうみんな親切じゃないかと思いました。ひとまとめにして、概念化することはまずいぞってことですね、あたりまえだけど。そういえば地名で王子というときと、王子様というときでは、同じ字なのにまったく別々の像を思い浮かべちゃいます。

Posted by: 玉井一匡 : November 5, 2006 01:09 PM

AKiさま 朝日の書評欄は、まだ見ていませんでした。たまたまこのエントリーと同じ日に重なったのは狛犬のおみちびきというものでしょうか。早速、うちに帰ったら読んでみます。著者は、自分の名前にも漢字をつかわずにひらがなにしておられるのですね。たしかにむずかしい漢字ですからね。

Posted by: 玉井一匡 : November 5, 2006 12:57 PM

王子稲荷の狛犬じゃなかった狐はとぼけた味をだしています。なるほど、これは落語「王子の狐」のように逆に人間に騙されそうだと思えました。

Posted by: iGa : November 5, 2006 11:00 AM

今朝5日朝日朝刊の読書欄の「著者に会いたい」は、「狛犬かがみ」の著者、たくき よしみつさんでしたね。これで、本が売れて........なんて考えてしまうのですが。そういえば、三越のライオン、トラファルガー広場のライオンを模したものと聞いていますが、これも狛犬ですね。まぁ、吹き抜けに鎮座している天女像は後からだけど。

Posted by: AKi : November 5, 2006 09:34 AM
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