November 09, 2007

インテリジェンス

 インテリジェンス・武器なき戦争/手嶋龍一・佐藤優/幻冬社/777円
 AI はArtificial Intelligence:人工知能、CIA はCentral IntelligenceAgency:中央情報局だ。この本のタイトルは、知能の意味ではなくてCIAの「I」の方なのだろうとは、対談するふたりから察しがつく。数限りなく入って来る情報(インフォメーション)を、その価値や信頼性を評価し取捨選択してそれらをシステムとしてくみたて意味を読みとって国家の行動のもとにする能力。そうやって精選された情報。それらをインテリジェンスというらしい。それが個体としての能力であれば前者の意味になり、国家のような組織体の能力であれば後者になるわけだ。

 佐藤優は鈴木宗男とともに逮捕され葬り去られたものと誰しも思っていたが、刑事事件の被告という立場を持続しながら数年にして表舞台に浮上するという離れ業をやってのけた。外務省は休職中とある。手嶋龍一はNHKのワシントン支局長としてワールドトレードセンターの崩壊をニュースで伝えた。この本のあとに佐藤の書いた「国家の罠」「自壊する帝国」、手嶋の「ウルトラ・ダラー」を読んだが、「インテリジェンス」が期待させたとおり、佐藤は傑出したハードボイルド探偵で同時にすぐれた著者だ。以前に、ロマンスのR:女ハードボイルド探偵というエントリーで、ハードボイルドについてつぎのように定義したが、彼はまさしくこれに適合する。
「ハードボイルドは2つの要件を満たさねばならない。
(1)みずからに課した掟は徹底的にまもる。そのためであれば、社会的な約束事から逸脱することもいとわない。おそれない。
(2)みずから事件の中に飛び込んで事件の動きにかかわり、ときに流れを変える。 」
かつて佐藤は、ソビエト連邦と共産党という堅固な制度の腐敗と崩壊の近くに立ち会った。その状況に、日本の現在のありようが似ていると危惧している。省庁という制度の中での位置の上昇競争を最大の関心事としているキャリア官僚たちにとっては、制度の腐敗や老朽に対する関心も「インテリジェンス」の活用にそそぐ情熱も薄くならざるをえない。こういう日本の官僚世界と佐藤優が背反することは、いずれにしろ必然だったのだ。

 かつて二人が属していたNHKと外務省という組織は、日本ではもっとも情報を集めやすいはずだ。報道機関にとっては情報そのものが最終的な商品だけれど、外交にとって情報は道具あるいは材料にすぎない。「インテリジェンス」は、それを現実の世界に活用しなければ意味がないからだ。それを生かすためのパートナーと見込んで、佐藤は鈴木宗男を選んだ。

 うどんなどを旨く食べるために、それだけではとても口にできない唐辛子などを、ぼくたちは薬味としてわずかに散らすのだが、この本ではそれが逆になっているかのようだ。佐藤優という痛烈な毒を初めて吞み込むには、手嶋龍一をふりかけると喉ごしがいいのだ。しかも、対談という形式が、もっと口当たりをよくしている。
 ・・・・というところで一度は終わらせていたら、手嶋龍一をいいと思うのかと友人に聞かれた。そういうつもりはまったくないので、誤解されないようにすこし付け加えておこう。手嶋による「ウルトラダラー」は、北朝鮮が偽札をつくるというおもしろい題材をあつかった小説であるにもかかわらず、リアリティがすこぶる希薄なのだ。人間のディテールを描けば描くほどステレオタイプにおちいる。持ち物や着ているのものや車のブランド、組織の地位などで表現するしか方法を知らない。そんな表面的なことでしか人間を表現できない人に「インテリジェンス」を読み取る力が備わっているとはとても思えない。上記の友人に言わせれば「偽ドルはCIAの仕業だというのが常識になってるんだろ」という。

投稿者 玉井一匡 : November 9, 2007 10:08 PM
コメント

iGaさん
天木直人のサイト読みました。佐藤優の本はものすごく面白い。行動力も、検事とやりあう力も敬服する。ただ、ぼくも、彼の論理でちょっとぼくの考えるのとは違うところがあると感じます。彼は、国家という排他的な存在を肯定していることです。しかし、バルト三国の独立やソ連の解体という事態に立ち会った佐藤優にとって、国家という制度は、平和のためには何らかのかたちで存在せざるをえないと考えているのだろうと思うのです。フセインを肯定するわけではないが、彼のいなくなった後のイラクの殺し合いを見ても、同じように感じるところがあります。
そのうえで、ぼくは排他的な制度のなくなることを理想として、その境界を崩したいと思います。

Posted by: 玉井一匡 : November 14, 2007 04:46 PM

外務省休職中の佐藤優に対して外務省を退職した元レバノン国特命全権大使・天木直人が次のようなコメントを自身のブログに寄せています。外務官僚のラスプーチンと呼ばれる佐藤優と、或る意味で青臭さを残す天木直人、この二人は対照的ですね。
「佐藤優という休職外務省員を私はどう評価するか」
http://www.amakiblog.com/archives/2007/11/14/#000586

Posted by: iGa : November 14, 2007 01:28 PM
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?