December 07, 2008

「憲法って こういうものだったのか!」

KenpouKouiu.jpg「憲法って こういうものだったのか!」/姜尚中、寺脇研/ユビキタ・スタジオ/1785円

 図書館の新着図書の書棚に置かれていた本のタイトルと表紙のデザインが目をひいた。表紙のデザインは、中央にタイトルを置いてその左右に二人の氏名がある。「憲法って、こういうものだったのか!」というのは、もちろん二人の発言ではなく、この本を読んだ読者が発するであろうことばだ。じつはぼくの読後感もこういう思いだった。
姜尚中氏は、ぼくにとってその発言に同感するところの多い人だが、寺脇研氏のことを、ぼくは名前さえ知らなかった。かつて文部官僚として、ゆとり教育を中心になってすすめ、のちに、学力低下を招いたとして批判にさらされ2006年に退官した。こういう経歴とこの対談の発言からすると、ぼくたちが官僚についてつくりあげている概念からは大きくはずれた人物のようだ。概念という型にはめて人を見たりものごとを理解することことのあやうさは自覚・自戒しているのだが、概念がはずれたことがうれしい。

JapanKenpo.jpg この二人は、対照的な経歴をもっていながら価値観には重なるところが多い。姜尚中は学生時代のある時期までは日本名永野鉄男を名乗る在日韓国人として、自分は日本国憲法の枠の外にいるととらえていただろうが、寺脇研は日本国憲法という枠組みの只中で国家を運営する立場にあった。憲法に対してかくも対照的な位置にあったふたりが、いまは前者が公務員の一員として、後者は公務員という枠組みから自由になって、この本では日本国憲法を論じているのだからおもしろいのは当たり前かもしれない。
 自分が生まれ育った場所については、よく知っていると思うから地図をみることが少ない。意識的な対象として場所を見ることが少ないのだ。外からその場所にやってきた人は、地図を手にしてまちを把握するので、かえって全体的な構成やありようを認識することができる。姜尚中は自己の外にあるものとして日本という国家を対象化したのに対して、寺脇は国家公務員として自己を律するツールとして憲法を対象化していたのだ。

 寺脇によれば、国家公務員がはじめに辞令をもらうとき日本国憲法のもとにつぎのような宣誓をするという。「私は、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務すべき責務を深く自覚し、日本国憲法を遵守し、並びに法令及び上司の職務上の命令に従い、不偏不党かつ公正に職務の遂行にあたることをかたく誓います」と。 
ぼくたちは、官僚とは国民を支配する法令をつくり運用する権力者と思いがちだが、憲法は公務員を国民に「奉仕」するものとしているのだ。寺脇のことばでこれをきくと、公僕ということばがただの建前ではながったのかもしれないと感じる。憲法には、国民が公務員を選ぶと書いてあって、政治家が国民を支配するのでもなく、官僚が国家を操作するのでもなく、国民の代理人の集合としての国会が法をつくり、多数党の代表がつくった内閣が法にもとづいて国を運営する。その源は国民なのだというだれもがわかりきったつもりの原理が感覚としてわかるのだ。

 この本では天皇についての言及が思いのほか多い。「第一章 天皇(一条から八条)」と「第二章 戦争の放棄(九条)」は一体のものだという指摘が、ぼくには新鮮だった。文化的存在としての天皇を象徴とすることによって、武力でなく文化によってこの国をたててゆくことを示したもので、天皇はそれを意識しているからこそ訪中やサイパンの慰霊訪問を実現させ、いずれは韓国訪問も実現させるだろうという。
 
 Wikipediaでふたりについての記述を読んで気づいたが、この二人の接点はコリア国際学園にあるのではないか。サイトにアクセスしてみると、寺崎が役人の時代に設立されたとおぼしき在日韓国・朝鮮人のための小規模な中学・高校で、「越境人」を育てるとしている。ほんとうはコリア越境学園としたいところだったのかもしれない。興味深い学校だ。

 じつを言えば、これまでぼくは姜尚中の著書を読んだことがなかった。テレビや新聞・雑誌での発言には同感するところがとても多いので、本を読まなくとも何が書いてあるかわかると感じたのかもしれない。けれども、この本を読んだあとでは、彼の著書を読みたいと思った。寺脇研については何も知らなかったから、ゆとり教育について書かれたものを読みたいと思う。

■ 日本国憲法全文を掲載したサイトがあります。
■携帯用の日本国憲法(上の写真):昨年、「川の地図辞典」を買いにいったときに、信山社・岩波ブックセンター「日本国憲法」小さな学問の書①/童話屋編集部 発行/300円という薄い文庫本を見つけて買ってきました。
日本国憲法の全文に英語訳と教育基本法が加えられています。こどもたちにあてた2ページの「まえがき」のほかには、何も余分なむずかしい解説がないので、憲法ってこんなに少ないのかと、身近に感じることができるような気がします。
■関連エントリー:「映画 日本国憲法」

投稿者 玉井一匡 : December 7, 2008 10:35 PM
コメント

iGaさん
ありがとうございました。
いま、やってみて、MADCONNECTIONにコメントを書いているところでした。できましたよ!

Posted by: 玉井一匡 : December 18, 2008 06:46 PM

拙ブログの『i文庫』にZipで圧縮した日本国憲法テキストファイルのURLとダウンロード方法を追記しました。

Posted by: iGa : December 18, 2008 06:38 PM

iGaさん
さっそくやってみます。
しかし、任意Zipダウンロードってどうやるのか、まだ分かりませんけれど、目下しらべているところです。

Posted by: 玉井一匡 : December 18, 2008 04:32 PM

「任意zipダウンロード」の機能を用いて『i文庫 』に日本国憲法を取込んでみました。iPhoneにも日本国憲法を...どうぞ。

Posted by: iGa : December 18, 2008 03:46 PM
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