May 16, 2009

水琴窟のようなもの

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 さきごろ友人が、自分の設計した住宅に「ヴィラのようなもの」というタイトルとつけたと知って、そういえば、去年つくったこの仕掛けは「水琴窟のようなもの」といえばいいのだと思った。なかなかいい音を出していると思うし眼にもまあうつくしいと思うから、「のようなもの」という表現は卑下しているというわけではなく、ぼくの考える水琴窟のあるべき条件を満たさないから、これを水琴窟だとは言うわけにはゆかないのだ。
 「窟」とはほらあなである。洞穴であるからには地中に空洞をつくり、そこにひそやかに水と大地が音を響かせるのを楽しむものでなければならない。が、これは甕を白日のもとにさらしている。そもそも水琴窟はあそびである。あそびであるからこそ、本来のありようをまもることには忠実でなければならない。これは地中に埋めていないという一点で、水琴窟と名乗ってはならないのだ。

「日本水琴窟フォーラム」という、水琴窟好きのあつまるNPOがあって、西に古い水琴窟があるらしいときけば調査におもむき、東で土が溜まって音が出なくなったものがあれば洗浄して復活させる。北から水琴窟をつくりたいのだが、つくりかたを教えてくれと言われれば海を越えてさえ指導に出かけるというような活動をしている。たまたまぼくの事務所はフォーラムの中心となっている人の事務所と同じビルにあって、言ってみれば門前の小僧のようなものである。「ひとのすなるすいきんくつのようなものをつくらむとするなり」と思い立ったのも自然な成りゆきというわけだ。

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 水琴窟とは、地中に空洞をつくり、その底に中に10cmほどの深さで水が溜まるようにしておき、そこに水滴を落として水滴の音をひびかせるという仕掛けだ。底に穴をあけた甕を伏せて土中に埋め、水に一定の水位を保たせる水抜きをつくる。「日本水琴窟フォーラム」のサイトに、歴史や構造についての説明があって音も聞くことができるので、開いてみてください。
しかし、土に埋めてしまう本格的な水琴窟では試行錯誤がほとんどできない。いったん作ってしまえばもうちょっと水を深くしてみようかとか甕のかたちを変えてみようか、なんてことを思ってもあとの祭り至難の業だ。

 だからぼくは、研究者がそうしているであろうように土の中に埋めずに水位の調節も可能な仕掛けをつくることにした。ぼくのやつの材料は、まずは紹興酒の甕、そして浅い大型の植木鉢、素焼きのちいさな植木鉢、内径10mmほどの銅管、浴槽のゴム栓、それに緋扇貝の貝殻をつかった。

・ 紹興酒の甕の底に電動ドリルで穴をあける。それを大きな平型の素焼の植木鉢の中に伏せて水を張るのだが、植木鉢の底には穴があるから、それをふさがなきゃあならない。ぼくは風呂のゴム栓をつかうことにした。それで水を溜められる。
 しかし、そのままでは水を落とすたびに水位が上がってしまうが、水琴窟は水位を一定に保たなければならない。ゴム栓の中央に穴をあけて銅管の一方の端を差し込んで、甕の下をくぐらせて甕と植木鉢のあいだにもう一方の端を出した。水が増えればその管から外に流れてゆくから水位を銅管の一方の端に保つことができる。曲がりの継ぎ手のところで回転させれば銅管の端の位置を変えられるから水位を調節できるのだ。

・紹興酒の甕の上に、はじめはサギソウの鉢植えを載せた。そこに水をやると、余分の水は鉢の底の穴から下に抜ける。それが甕の中の水に落ちて滴の音を響かせるというわけだ。なかなかきれいではある。しかし、それではありふれていておもしろくない。
そこで、植木鉢の中に貝殻を入れようと思った。かつて娘が何度も天草に行き来していたときに、よく泊めてくださったお宅から送ってくださった特産のヒオウギガイをつかえば、それぞれが花びらのように美しいだろうと。
 小ぶりの植木鉢の中にスポンジをいれて、たっぷり水を吸収させる。その上を砂利で蔽って、さらに花びらにみたてた緋扇貝を重ねた。甕を露わにしているだけに水をかけた後にすぐに音を出す反のではあまりにおもしろみがない。スポンジを入れておくと、そこにかなりの水が蓄えられるから、それがしばしの時間をおいて音をだして5分ほどつづく。おそらく、貝殻にたくさんついている溝も、水をしばらく留めるのに役立つだろう。
 産地ではハマグリのように緋扇貝を火に載せて、焼いて食べるのだそうだが、ぼくは貝殻の美しい色を見て火にかけるに忍びなくて、貝殻の隙間からナイフを差し込んで貝柱を切り離し、刺身にして食べた。形がホタテに似ているように味も帆立のようだが、もっと肌理の細かい味と舌ざわりで、帆立より旨い。貝殻は捨てるにしのびなくて、庭先に置いてあったのだ。

・脇に漬け物の甕にためてある水を貝殻を柄杓にしてすくいとり緋扇貝の上にそそぐと、陽にあたって色の褪めていた貝殻が、たちどころに鮮やかな色をよみがえらせる。水をかけるたびに、ぼくは水と貝をいとおしく思うのだ。
 少し時間をおいて水が下から流れるとそれが甕の穴から内側に回って、水面に落ちる。
水滴がおちたとき甕の中で音を響かせる。その音がふたたび紹興酒の底の穴から戻ってきて、植木鉢の下にある大理石に反射して、隙間からこぼれてくるのだ。

・水滴が水面に落ちて音をだすというメカニズムについては、上記の日本水琴窟フォーラムのサイトの「水音研究所のページ」に詳しい論文が掲載されています。

投稿者 玉井一匡 : May 16, 2009 09:32 PM
コメント

masaさん
かつてBe-eaterに、この貝のことをエントリーしたのを思い出して、リンクしておこうと思って開いてみたら、2004年でした。
もう5年も経っているんです。
5年もたっているのに、この貝たちはまだ美しいのです。
乾いていると、なんだかカサカサしたような色になってしまうのですが
水をかけるとこのとおり、鮮やかないろを取り戻します。
水揚げをすると生き返る花のようでもあります
それを見ながら音を聴いていると
雲が雨となって地上に降り、川となってくだって海に注ぎ
途中で生物をそだてる。
ふたたび雲になって空にのぼる水が、いかに生命を支えているのかを思い出します。

Posted by: 玉井一匡 : May 20, 2009 03:07 AM

貝殻の色と配置に惹かれました。まるで花のように見えます。落ち着いた派手さが、苔のような背景の色にじつに映えて見えます。霧雨の日に、こいつはどんな音を響かせるのだろうか…と想像させられます。水琴窟を見ても、そんなことはけっして思わないのですが…。水琴窟のほうが「"ようなもの"のようなもの」に感じさせるくらいに、コイツは素敵だと思いました。さすがに玉井さん…です。

Posted by: masa : May 19, 2009 11:17 PM

Chinchiko Papaさま
返信コメントをいただいたあとであらためて読み直してみたら「水琴窟フォーラム」へのリンクがおかしかったのに気づき、あわてて修正し、音を聞くことができるという説明も加えました。
ありがとうございました。

Posted by: 玉井一匡 : May 18, 2009 07:33 AM

Chinchiko Papaさま
ご無沙汰しています。
早いものですね。あれからもう1年になるんですから。
そういえば、水琴窟の音をiPodにいれておくという手もあるのを忘れていました。さっそくやってみます。
ほんとうは、水琴窟というのは庭師のしかけるひそやかなしかけであって、むしろ目立たず、ある日だれかが音に気づいてこれは何の音だろうかとというものが最上なのであって、こんなふうに目に見えるようにするものではないだろうと、ぼく自身おもっているのです。

Posted by: 玉井一匡 : May 18, 2009 12:24 AM

ときどき水琴窟の音色がむしょうに聴きたくなり、日本水琴窟フォーラムのサイトへアクセスしています。あの音色をBGMにして原稿書くと、けっこうはかどるのです。
なんとなく、精神を鋭敏にして集中力を高める効果がありそうな気がします。

Posted by: Chinchiko Papa : May 17, 2009 10:55 PM
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