March 22, 2010

ものをつくる人がまちにいるということ

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 二年ほど使ってきたバックパックが壊れた。
時と場合によっては肩掛けをポケットにしまい込めば縦型の手提にできる「2wayバッグ」だが、その取手の一端がとれてしまったのだ。「エース」のACEGENEというシリーズのものだが、 取れてしまった個所を見ると、お世辞にも縫製が丁寧とはいいがたい。もっとも力のかかるはずの取手の縫製が すこぶる簡単にすませてある。平凡なデザインだが布地もしっかりしているし丈夫そうなのを見込んで買ったが、たまにしか使わない手提げが取れてしまった。
 それを買った東急ハンズへ修理に持っていくと、メーカーに見積もらせて連絡すると言う。それから、ひと月ほどでやっと電話が来た。まわりをはがしてやり直すので八千数百円かかるという。普通に使っていたのに取っ手がとれてしまったということを恥じるところがない。現在のモデルは取っ手の構造が変えられてだいぶしっかりしているらしい。同じように壊れたことがあったのだろう。
 20,000円ほどで買ったものだから5000円くらいまでなら修理を頼もうと思っていたが、もう少し足せば、ものによっては新しいやつが買えそうなくらいなので、修理は頼まないと答えた。バッグが戻ってきたとハンズが電話をくれたのは、それからさらに一ヶ月後だった。戻ったら自分で手縫いしてみるか、新しいバッグを買おうと思って後継も決めていたが、神楽坂にバッグの修理をしてくれるところがあるときいて行ってみた。

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 外から見ると、いささか雑然とした間口1.5mほどのちいさな店だった。中に入ると奥では階段の下のスペースが使えるのですこし横にひろがっていて、ぼくと同年配くらいの人がそこでひとり作業をしていた。
「ここがミシンに入れられれば修理できます。夕方までにやっておくから、取りにいらしてください」と言われたが、その日はおそくなったので翌朝にした。

 無精ヒゲを一面に生やした人なつこい笑顔が「できましたよ」と渡しながら「600円です」という。直っただけでもうれしいのにその料金じゃあ申しわけないから、お釣りはいいですよと言って1000円札を渡したが、「そういうことにしていますからこれでいいんです。また何かあったら来てください」と言ってお釣りの400円を渡してくれた。
不思議なものだが、簡単にこわれたことを「エース」が恥じることのない時には、バッグへの愛情まですっかり薄れたのに、直って戻ってきたら同じバッグが以前にも増していとおしく感じられるようになった。

 こんなふうに気持ちが変わるのは、思いがけないことだった。なぜなんだろうかと考えてみると、なにも安い料金で修理をしてもらえたからだけではない。
モノをつくり直してくれる店が、歩いて5分ほどのところにあるというのは偶然にすぎないにしても、生活圏の中にものを直してくれるひとがいて、直接に話をして手渡してくれるということが、とても気持ちいいのだ。そういうまちに生活することを気持ちよく、また元気になったバッグを使っていることがうれしいのだ。修理してくれたひとにとっても、客にうれしさをじかに手渡すことができるのが気持ちいいのだろう。
 「エース」では、中国の工場の労働者にやらせるのだろうが、修理を中国に送るわけにはゆかないから国内の下請けにまわすと、いくつもの手を経て実際に修理する人に辿り着いたときには、大袈裟な修理のスペックと手数料と輸送料が幾重にも重なっているにちがいない。

 かつて、どこのまちにも、ものをつくる店や町工場が身近にあったが、いまのまちの多くは、ものを作る人は少ない。経済上で合理的とされる生産と販売のシステムの結果だ。そのシステムを支えるのは国際間の賃金の格差、経済力の違いだ。製品を輸送するために石油を消費し海と大気を汚す。安く買って、それが壊れたら捨ててしまうと廃棄物がまた汚染をうむ。そういうシステムは、どこかおかしいと、おそらく誰もが直感しながらそれに依存しているんじゃないだろうか。

 バッグをなおしてくれた人は増田さんという。増田さんが、こんなふうに気持よく修理できるのは、彼がすてきなモノをつくっている人であるからなのだということを、ぼくは数日後になって知った。

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ミニランドセル/MyPlace

投稿者 玉井一匡 : March 22, 2010 10:05 PM
コメント
iGaさん主催の東京造形大学ツアーの際にお会いしたぽーりーです。ご無沙汰しております。 実は、ぼくの父は修理の人で、実家にある家電はとても長生きをしております。三洋製のゴミ処理機を使っているのですが、撹拌用のシャフトが折れてしまい、それはさすがに自分では直せないと思ったようです。しかし、さすがは昭和初期の人。電話しまくり、行き当たったのが、自動車の修理工場。「本業は自動車だから、夕方になったら持ってきな」って言われて持っていきシャフトを溶接してもらったそうです。 ちょっと前までは、みんなこうだったと思うんですけどねえ。ものづくりの拠点が移ってしまった弊害なのでしょうね。 Posted by: ぽーりー : February 22, 2011 01:37 PM
あかねこさん あなたの立場をここにあてはめると東急ハンズの立場ですね。バッグならどこがどういう理由で壊れたかを店の人が把握してメーカーに伝えることはできるでしょうが、楽器となるとずっと微妙で複雑だからそれもむずかしいですね。  何日かに一度でも、修理する人自身が来てくれてその場で相談してくれるようになったら、ユーザーとしてはうれしいだろうなあ。 Posted by: 玉井一匡 : March 25, 2010 12:11 PM
わたしはモノを売る仕事をしているけれど、修理まではできないのでこのエントリーには考えさせられました。 壊れた楽器を持ち込まれても、すぐには直せない。もちろん時間をかければ外部や本社に依頼して直すことはできるけど、時間がかかる。 欲しいときに欲しいものを提供することももちろんだけど、トラブルがあったときに即対応できるような店のほうが私は好きなんですが、そこまで出来ないことが歯がゆいです。 Posted by: あかねこ : March 24, 2010 10:01 PM
AKiさん ひとつ、はじめのご質問にお答えしていませんでした。 増田さんが何をつくっているか。書こうとしたのですが、ちょっと長くなりそうなので続編として次のエントリーで書くことにしました。 Posted by: 玉井一匡 : March 24, 2010 06:27 PM
iGaさん  ラガシャでしたか。ぼくが使っていたときは、外についているポケットの下のやつですが、ファスナーが左右と下の三方がファスナーで開閉するようになっていたのです。そのために下側の角のところでファスナーが擦れて切れてしまったのです。このサイトを見ると、今はファスナーの位置を変えたようですね。  その点のほかに、大部分の場合、バックパックとして使うぼくには、肩掛けのストラップがちょっと細いし腰がないので、買い換えのときにエースに替えたのでした。 Posted by: 玉井一匡 : March 24, 2010 06:09 PM
LAGASHA(ラガシャ)のバッグですね。僕のバッグも肩掛ベルトの付け根部分の糸が解れてしまいましたが、自分で直して今も現役です。直すことができたのは、マチと云うのか縫い代部分に余裕があったからですね。 あの系統のバッグもMac系のショップとのコラボでこんな風になってるみたいです。 http://www.carryingcase.net/group_detail.cgi?group_id=ccn-lg9317 Posted by: iGa : March 24, 2010 08:43 AM
kadoorie-aveさん  使い慣れたバッグは、ものをなくしたり忘れたりしないためにはとてもありがたいから、できるならいつまでも使い続けたくなります。ご婦人の、靴への気持ちというのは、男とはずいぶん違うのでしょうね。よく、ご亭主が奥さんをイメルダに重ねて話すことがあります。イメルダは、ろくに歩きもせずに、たくさん並べておくのがうれしかったんでしょうが、kadoorie-aveさんの気持ちは、これとは随分違うんでしょう。  バザーで2000円で手に入れたという靴を愛して、こんな店で修理をさせてやろうとお考えになるのは、とてもkadoorie-aveさんらしい。 しあわせなくつです。 Posted by: 玉井一匡 : March 23, 2010 02:49 PM
AKIさん さすがに、吉田カバンはしっかりしているんですね。次期の機種選定には、吉田カバンのものをさがしました。手に持ったら、バッグパックでございという形でないように、四角のやつをいつも使っています。 前に使っていたバッグは、たまたまiGaさんとおそろいでした。それもハンズで買ったのですが、ファスナーがこわれたので修理してもらったら、3千円代で直ってきました。全体がピカピカになっていたので、もしかすると新品に替えてくれたのかもしれません。今は、そのメーカーはなくなったようで、ハンズでは見つかりませんでした。 Posted by: 玉井一匡 : March 23, 2010 02:32 PM
修理の話というのは気持ちのいいものですね〜♪ 旨い具合に修理ができると、前より良いものになったかのように嬉しいです。町によくある靴と傘の修理の店でも、よく見もせずに「修理できない」というところと、それを丁寧にきちんと直してくれる店とがあります。担当の人によっても、対応や仕上がりが違うので、お気に入りの人がいるかどうか窓の中をのぞき込んだりします。直して使いたくなるようなモノが欲しいし、直してくれる素敵な人が近くに欲しいです。 今、修理を考えているのは靴です。バザーで手に入れ、私も履き込んだイタリア製の靴、2000円也。直すのが底だけではないので、渋谷に興味深い靴修理の若きマイスターを見つけ、持ち込んでみようかと思っています。元よりも、さらにカッコよくしてくれるらしい(あまり安くはないと思いますが)...自分のまちならなおよいのに! http://www.konigdermeister.com/ Posted by: kadoorie-ave : March 23, 2010 11:59 AM
いいですね。ところで、増田さんって何を作っているのですか。 私も、ずっと使っていた吉田カバンのバッグを直したことがあります。それは二本付いていたチャックが壊れたので、チャック二本を取り換えるという大工事だったのですが、費用は6,000-円ほどだったと思います。 ちゃんと対応してくれる吉田カバンは、なかなか……と思ったものでありました。 Posted by: AKi : March 23, 2010 08:57 AM
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