March 26, 2010

ミニランドセル

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 前回のエントリー「ものをつくる人がまちにいるということ」で、バックパックを神楽坂で直してもらったということを書いたのだが、AKIさんのコメントに「増田さんって何を作っているのですか」という疑問が書かれていた。その疑問は当然のことで、ぼくはそれについてちょっと出し惜しみをしていたのだった。そこまで書くと長くなりすぎるし、ストーリーが2つできてしまいそうだったからでもある。

 増田さんは、役目を終えたランドセルの皮をつかって、たてよこ10cmほどのミニランドセルをつくるのだ。そのとき、注文主はそのランドセルにまつわる思い出を書いた手紙を添える。その手紙を読み込んでから、ランドセルに書かれていた名前、思い出深い疵や汚れが残されるように注意深く皮を切り取る。
 それがどんなに特別の思いの込められたものであっても、使い古しのランドセルの中は空っぽになって、代わりに寂しさが残されているものだ。ところが、それがミニチュアのランドセルに生まれ変わると、そこに愛情と記憶が詰められるようだ。おそらく、いいことであれつらいことであれ、過去と向き合うことで、それをこれから生きてゆくためのスプリングボードにすることができるのではないか。

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 修理の終わったぼくのバックッパックを渡しながら「NHKで前に放送したのを、こんどの土曜のNHKアーカイブというので再放送するので、よかったら見てください。私もすこし出たんです。番組表のコピーがそこにあります。」と増田さんは言った。
 土曜日の朝10時をだいぶ回ってから、ぼくはそのことを思い出して、いそいでテレビをつけた。まちを紹介する番組の一部にでも出てくるのだと思っていたから、間に合わないだろうと思いながら見はじめたが、その後40分以上も番組はつづいた。じつはその番組の1時間半ほどのすべてが、増田さんのつくったミニランドセルをめぐるさまざまな家族の愛情や悲しみやよろこびの物語をつたえるドキュメンタリーなのだった。もとの番組がつくられた1999年当時すでに8,000、現在では13,000ものミニランドセルをつくったという。NHKのアーカイブにある数多くのドキュメンタリーから選ばれただけに、とてもいい番組だった。

 この物語に僕たちはとても心動かされたのだが、それだけではない。彼のあり方が、ちょっと大袈裟に言えば、これからのぼくたちの世界が目指すものの、とてもすてきなモデルのひとつではないかと思うのだ。・・・可燃ゴミとなるしかない古ランドセルが、あたらしい価値と意味を与えられる。それが家族をむすぶ。・・・消費される資源と廃棄物が限界に達している世界、ひとりひとりが自立するのでもなく孤立していることの多いこのくにで、彼のしごとは人と人を結ぶことができる。そして、ひとつの経済活動でもある。
 バックパックを直してもらったぼくも、劇的でこそないがとてもきもちよく、毎日を移動している。気やすく修理を引き受けるのも、それがぼくたちによろこびを知っているからなのだろう。いまも彼の店「夢小路」の入り口には「古いランドセルがあったらください。(研究の材料にします)」と書かれている。

■追記
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 aiさんが、さっそくコメントを書いてくださった。そこに「5色のランドセルを作ったご家族で、20年余り前からのお客様」が、番組のことを教えてくださったと書かれている。番組に登場した増田さんの後日談によれば、このご家族に夫妻で盛岡に招待されたそうだ。
その5人のこどもたちの小さな写真がNHKアーカイブのサイトに掲載されていた。

投稿者 玉井一匡 : March 26, 2010 12:56 PM
コメント
aiさん  そうだったんですか。そういえば、あのかたは盛岡のお医者さんでしたね。aiさんを思い出しながら見ていました。  このお店の近くに、店にミシンを置いて鞄をつくっていいる店があります。できたての時に行って話をしましたが、自分でつくっているだけあっていかにもものつくりをしている人らしい、いい感じの人でした。店のおもてのアルミサッシのフレームの上から、みんな皮を貼ってあったのも興味を惹かれました。中に入ったら、床にもタイルのように長方形のタイルが貼ってありました。いずれも断ち落としをつかったものなのでしょう。 鮎藤革包堂といいます。鞄という漢字を革と包に分解したんですね。 注文して2年待ちくらいだと言われて、理想のバッグを考えたりしたのが、もう3年くらい前のことでした。いつのまにかわすれちゃいました。たしかに、布のバッグは傷む一方ですが革のバッグは使い込んでよくなっていきますね。 鮎藤革包堂ブログ http://blog.ayufujikakuhoudo.com Posted by: 玉井一匡 : March 26, 2010 09:17 PM
こんにちは♪今度こそコメント書こうと思っていたら・・・バッグの治しについて・・・なんとミニランドセルのことだったのですね?! この番組に5色のランドセルを作ったご家族が出たと思いますが・・・見ることができなかったので・・・20年余りまえからのお客様なのでした。放送時間を印刷して一枚くださったのですが、企画展中で見逃してしまいました。 5人ものお子様がみんな色違いのランドセルをしょって学校に通ったこと、ミニランドセルに加工したことなどお聞きしていたのです。 その加工元に行き当たったのも何かのご縁ですよね~。 工業製品の鞄を元どおりに直すのがとても高くつくというのは仕方のない話なのかもしれませんけど、このように全く別のものにして記念にとっておくというのも、なんともすてきな試みでしたね。 あ、長くなりましたけれど、身近に持つバッグはやはり革製品が好きです。帆布もよいのですが、やはり痛みが激しい・・・使いすぎかも。東京にも地道にいい鞄をつ売っているところがあるようですし・・・。 Posted by: ai : March 26, 2010 03:02 PM
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