March 14, 2011

死都日本

ShitoNippon.jpg死都日本/石黒耀著/講談社
 ひと月ほど前に読んだ本だが、書名があまりにも現在の状況とかさなって重く感じられるかもしれない。たしかに、内容を読むめばさらに現実と重なる。しかし、自宅待機で繰り返し同じような番組のテレビにを見てウンザリするよりは、むしろこの小説を読んで、これから起きるかもしれない事態に腹をくくる方がいいかもしれない。
 この本は、地震でなく霧島の火山群が大爆発して日本全体が存亡の危機に追い込まれるというクライシスノベルだ。これを読んだ当時、現実界では新燃岳の噴火が起きているときだったから具体的な想像がひろがって、読み出すと止まらない。途中でGoogleEarthを開いては地形や位置を確認する。そのころは自転車が壊れていて電車通勤していたから電車の中でもiPhoneを片手からはなせなかった。
 友人にすすめられてすぐに図書館から取り寄せたが、単行本では4cm近い厚さを一気に読み終えた。

 物語の社会的な背景は、長年の保守一党と官僚による支配を選挙によってくつがえし政権交代を実現させたばかりの「共和党政府」が、これまでの負の遺産を受けついで苦労しているところだ。というと現実のできごとに便乗して書かれた代物のようだが、出版は2002年。小泉内閣の時代、日韓ワールドカップの開かれていた年でもあるから、むしろ8年も前に現実を予見しているのだ。首相の姓は菅原といい、それも現実との符合を思わせるが、思想も力量も現実の首相は小説の人物に及ぶべくもない。

 10年近く前の出版だが、いままでぼくはこの本の存在をまったく知らなかったし、世間でも話題になったことはない。主人公は宮崎の大学で教える異色の火山学者。日本の神々による国造り神話は霧島の火山群を中に囲む巨大な加久藤(かくとう)火山の大噴火を象徴化したものだという持論をかねてから展開している。Googleマップの航空写真で見ると、この火山群を中に取り込む大きな火口が地形として残っていることがわかる。天孫降臨の地とされる高千穂峰は霧島山のすぐとなりにある。その霧島が、何万年に一度という規模の大噴火を起こし、日本列島の大部分に壊滅的な被害をもたらすのだ。
 地震ではその地域だけが被害を受けるが、大噴火は上空から降り注ぐ火山灰が遠くの地にも影響を及ぼし天候への影響は全地球に及ぶのだと、この本で知った。しかし、・・・・破壊された原子力発電所は、世界中の空間を汚し、何百年ものあいだ汚染を続けるのだから時間をも汚染する。

 もし、運よく日本が第二のチェルノブイリになることを避けられたら、そのときわれわれ日本は、これまでの国家と電力会社が手を組んで国中につくった原子力発電所をきっぱりとやめ、ほかのエネルギーと負担の軽減という方向転換を目指すべきだ。
そういう目標があれば、「計画停電」であろうが節電であろうが、苦労を希望に変えることができるし、命を奪われた人たちに報いることもできるだろう。

■参考マップ
加久藤火山/Googleマップ
チェルノブイリ/Googleマップ
スリーマイルズ島/Googleマップ 驚くべきことに、この島は内陸の川の中洲なのだ
福島第一原子力発電所/Googleマップ

投稿者 玉井一匡 : March 14, 2011 11:11 AM
コメント

もとせんもんさま
 わかりました。
なまやさしい展開にならないのは、間違いないですね。
東電をはじめ電力会社は、多くの反対意見がありこうなる可能性を知りながら「クリーンエネルギー」を自称して「オール電化」を推し進め原発を増やしきたのだから、これから長年にわたり日本人の生命と経済を傷つける責任は免れません。むろん、その後押しと先導を担ってきた通産省が主犯であり、黙認してきたマスコミは後援者、われわれも消費者としてすこしずつ共犯の片棒をかついできたのですから、ことは単純ではありません。
 しかも政府は、電力会社をつぶすわけには行かないから盗人に追い銭の融資をしてやらなければならない。ベトナムには原発を輸出する商談をまとめたばかり。

 だからこそ、エネルギーの負荷を減らし原発をなくすことにむけて方向転換する、この機会をのがしてはならないと思います。経済の量ではなく生き方の質で、「JAPAN AS no.1」を復活させるべきだと思います。

Posted by: 玉井一匡 : March 26, 2011 01:25 AM

今後原発に関する発言はしません。生やさしい展開にならないかもしれない。

Posted by: senrinoinkyo : March 25, 2011 04:16 PM

senrinoinkyoさま
 自然災害と人間がもたらした災害とは、同列で論じることはできないでしょう。自然災害はとどめることはできませんが、人間がもたらすものは、そもそも起こさなければいい。方法は明快です。原発でいえば、それをやめればいいのだから。
 NHKの番組に出てきた学者が、今回の経験であらたな技術を得られたというようなことを発言していましたが、じつは原発をやめればいいという価値判断を手にしたことが、今回の悲劇ののこした最大の遺産だと、ぼくは思います。

Posted by: 玉井一匡 : March 21, 2011 11:32 PM

読みましたウ~ン アンチ関東の関西の友人連中に紹介しました。連中の中にはウエスチングハウス(GEの対抗馬)→関西系原子炉(PWR)→阪大、京大系学閥(つまりアンチ東大系)→三菱住友系(アンチ東芝日立)が充満(東電のGE系原子炉はBWRで古い型式)と他人の不幸は我がなんとかと老人のたわごとわんさかわんさか。現実に対するはなはだ不見識であるが74歳の敗戦地獄を見た集団。です。

Posted by: senrinoinkyo : March 18, 2011 08:45 AM

Cchinchiko papaさま
 なるほど、そういう説があったんですか。浅間はアソ+マですか。
話のつじつまがあいますね。
この次のエントリーで野田秀樹の「南へ」について書きましたが、この芝居は、富士山が明暦の大噴火以来の大噴火が起きるという話です。それに白頭山からやってきた人間が出てきますが、白頭山は、北朝鮮の火山ですから、北から南の日本へやってきたということなのでしょう。

Posted by: 玉井一匡 : March 17, 2011 04:58 PM

『死都日本』は未読ですが、神話に登場する「神武の東征」は、朝鮮半島からやってきて九州の筑紫・山門地域に橋頭堡を築いた古代ヤマト政権が、アソ山系の火山活動によって壊滅的な被害を受け、新たな植民地を探しに海路で東へ向かった・・・というエピソードを、神話というかたちで象徴化したものだとする古代史研究がありますね。
アソ(おき火=活火山の意)の大規模な噴火時期を探る、火山学分野との連携研究だったと思います。結果、日本列島では危険度が高いアソの比較的少ない近畿地方へ侵入し、ナラへ落ち着いたとする説です。ご存じのように、朝鮮半島南部には火山が存在しませんので、彼らにとっては驚愕の事態だったように思えます。
近畿の古い聖域である滝沢宮と伊雑宮、そして新しいヤマト政権の伊勢宮とのトライアングルも興味深くて、そのレイライン上には信州のアソ・マ(浅間山)と大島の三原山、そして中央には大きなアソ(富士山)が位置するのも惹かれるテーマだったりします。各社の東に接して、アソ山が設置されているのも火山への鎮め、結界を連想しますね。
換言しますと、近畿より東はあちこちで火を噴く火山が望見できたので、古代ヤマト政権は近畿より東へは行けなかった(九州で火山に懲りていた)・・・というのが当時の事情かもしれません。

Posted by: Chinchiko Papa : March 17, 2011 02:33 PM

senrinoinkyoさま
 おっしゃる通り、いずれにせよ人類はこのまま環境を消費し続けることができないと大部分の人が知っていながら、いつどのようにして方向転換するかの決断ができませんでした。天災が契機を与えてくれたと受け取りましょう。
senrinoinkyoさんのように、かつて何もかもゼロにされた経験をお持ちの方がその経験を生かすときですね。

Posted by: 玉井一匡 : March 15, 2011 08:12 AM

自分は原点に戻ろう。今大地震でみんながとまどっている。政府や企業を責める論調が主流である。それは前向きではないとおもう。
先の敗戦の時を思い出そう。無一文になった。原爆を落とされた。親父が死んだ。だがそれは日本人自身の責任であった。
自然災害は誰の責任でもない。それだけでも先の敗戦とは違う。他人の所為にしないで自分を前向き指向にしよう。と。考え直しました。

Posted by: senrinoinkyo : March 15, 2011 07:06 AM

senrinoinkyoさま
 このような状況になるとなおさら面白い本だとは申しあげるわけにはいきませんが、著者は開業医が本職で第一作だというのに大きなテーマを破綻なくとても興味深い物語につくりあげていると思います。こうやってストーリーの内容をできるだけ触れずに、小説や映画を語るのはほんとうにむずかしいですね。
いま、わたしも「小林益川理論の証明」を図書館に予約しましたから、あさってくらいには借りられるでしょう。楽しみにしています。

Posted by: 玉井一匡 : March 14, 2011 11:17 PM

図書館にあったので直ぐに予約を入れました。1000億年後に宇宙は消滅するそうです。これとは関係ないですが、ご先輩の東京大学哲学科卒業の立花隆の「小林益川理論の証明」が面白いです、友人の文化系カチカチが面白いと言ったのでビックリしました。人間なんて宇宙から比べると無ですね。

Posted by: senrinoinkyo : March 14, 2011 08:19 PM

せんりのいんきょさま
 この本をご一読なさってみてください。「日本沈没」もそうでしたが、日本の地震は地球にとっては長い時間の尺度で日常的な活動の結果にすぎないのだと知ると、ぼくはあまり怖いと感じなくなります。
 しかし、原発や無原則的な開発は人間の欲望がもたらしたものだし、二酸化炭素対策として原発をクリーンエネルギーなどと言いくるめ、さらにオール電化などというのは犯罪的ではないでしょうか。


Posted by: 玉井一匡 : March 14, 2011 07:07 PM

昔原子力に片足を突っ込んでましたが、おっしゃることに同意します。小宅は何の害もないパッシブソーラーですがエネルギーの使用を敗戦時に戻しITも無い世界が良いのかもしれません。インターネットも携帯も要らないですね。それにしても東電幹部や原子力保安院の幹部が自ら出てきて説明しないが現在のトップはふぬけとしか言いようがないですね。現場を知らないのでしょうか。菅や枝野が出てくるのは見上げた態度ですが、弁論大会ではないのだから喋りが下手。池上彰さんの様に喋れないんでしょうか。

Posted by: せんりのいんきょ : March 14, 2011 04:25 PM
コメントする









名前、アドレスを登録しますか?