April 12, 2011

ここが家だ/ベン・シャーン画/アーサー・ビナード構成・文

KokoieS.jpgここが家だ/ベン・シャーン画/アーサー・ビナード構成・文

 MADCONNECTIONでこの絵本を知り、「このような時期に、公営の図書館がしかるべき役割を果たして欲しいと思いました。」(栗田さん)というコメントに共感してすぐに中野区立図書館を検索すると8冊の蔵書があるのにだれも借りだしていなかった。すぐに予約できたが、この時期に、この本を読もうとする人が一人もいないというのは残念なことでもある。

 絵を描いたベン・シャーンは、ぼくたちが学生の頃にはだれもが知っている画家だった。アメリカの月刊誌に掲載されたルポルタージュの挿絵として描かれた絵をもとに「ラッキー・ドラゴン」という連作として発表されたものを、日本在住の詩人アーサー・ビナードが日本語で文章を書いて絵本にした。図書館の分類では児童書のカテゴリーに含まれているが、こどもたちのためという形式をとった詩画集というべきだろう。

 船第五福竜丸でマグロ漁にでかけたが、ビキニ環礁のアメリカの水爆実験に遭遇して放射能を帯びた灰を浴び放射線障害で亡くなった乗組員と船の物語だから「ラッキードラゴン」とは「福龍」の英語訳であることはすぐにわかるけれど、「ここが家だ」というタイトルは、どういう意味だろうか。
巻末をひらくと、著者が引用しているベン・シャーンのことばがある。

「放射能病で死亡した無線長は、あなたや私と同じ、ひとりの人間だった。第五福竜丸のシリーズで、彼を描くというよりも、私たちみなを描こうとした。久保山さんが息を引き取り、彼の奥さんの悲しみを慰めている人は、夫を失った妻の悲しみそものもと向き合っている。亡くなる前、幼い娘を抱き上げた久保山さんは、わが子を抱き上げるすべての父親だ」

 久保山愛吉さんがマグロ漁船という特別な場所にいてこの災難に遭遇したという特別なできごとを描きながら、船という「家」にいた男たちの普遍的な生活が、水爆実験という特殊なできごとによって破壊された。久保山さんを、家でくつろいでいるあなた自身という特別な人に置き換えて考えようとのベン・シャーンの思いをこめて詩人はこの本に「ここが家だ」というタイトルをつけたのだ。

 そもそも核兵器はできるだけ多くの人間を殺すことを目的につくられるものだ。その点で、技術は確実に目的を実現した。だからこそ、オバマは核兵器の廃絶に動き出した。しかし、原子力発電は快適な生活や美しいもの人間の能力をたすけるものをつくることを目的にしている。しかし、それはいま人間の生命と生活をおびやかし、技術にはあきらかな限界があることがわかった。安いとされた原発は、じつはこうした社会的損失を考慮すれば莫大なコストがかかることも実感された。だとすれば、核兵器が、技術の達成したもののために段階的に廃棄されるように、原発は技術が達成できないものがあるのを知ったいま、同じように段階的にであれ原発をなくすべきではないか。

 もし、この事態を原発の修復や耐震強化のような対症療法で済ませ、根源的な危険に眼をつぶるなら、日本はハンディキャップを負って競争相手をあとから追いかけるにすぎなくなり、世界中に原発の数と事故の機会はますます増えてゆく。しかし、これを契機にまず福島原発を廃炉し、以後は原発をやめる方向に舵をきりかえ、電気の消費を減らすよう生産と消費の体制を転換することができれば、エネルギーシステムを変えることで、むしろ世界に多大な貢献ができるだろう。

■関連エントリー
ここが家だ ベン・シャーンの第五福竜丸/MADCONNECTION:3つの映像へのリンクも貼ってあります
■関連サイト
BEN SHAHN/ARTCYCHLOPEDIA:ベン・シャーンの作品が見られます(英語サイト)
アーサー・ビナードの著作
第五福竜丸展示館
関西電力「オール電化情報サイト」:東電はさすがにオール電化のサイトを休止したが、関西電力は4月11日現在いまもって公開している

投稿者 玉井一匡 : April 12, 2011 05:47 AM
コメント

neonさん
ぼくには、ベン・シャーンというと人物画がつよく記憶に残っているので
この表紙の絵ははじめて見ました
そうか、neonさんの絵と通じますね。

ぼくは、小さな湾に面した漁村が好きです
傾斜面を等高線にそって走る路地その両側の低い軒
いえの間を縫う不揃いの階段と坂道
そこから見える海
風と日差しと砂に洗われて木目の浮き立つ壁の板
そういう、魅力的な小さな漁港が流されたんでしょうね

Posted by: 玉井一匡 : April 12, 2011 09:28 PM

iGaさん
 貸し出してくれるのはありがたいけれど、もっと多くのひとに見てもらったほうがいいのかもしれない。早く返さなきゃ。
「知事抹殺 ・つくられた福島県汚職事件」は、新宿図書館にあった1冊を予約したら、いまは22件予約でぼくは10番目です。「佐藤栄佐久」は単語登録しました。ふつうはノーベル賞をだまし取った方に変換しちゃうので。

Posted by: 玉井一匡 : April 12, 2011 06:09 PM

ベン・シャーンが好きだったしこの表紙の画がなんとも素晴らしくて、数年前にこの本買いました。今再びひらくと、何とも言えない気持ちです。

Posted by: neon : April 12, 2011 04:03 PM

八王子市は南大沢図書館の児童書架と生涯学習センター図書館の児童室にそれぞれ一冊づつあるだけです。
原発関連の佐藤栄佐久「知事抹殺 ・つくられた福島県汚職事件」は漸く増刷され明日以降、Amazonから配達される様です。因みに八王子市立図書館は不便な中央図書館に一冊だけ、目下貸し出し中で予約が5件という状況です。
それと八王子市が節電対策で図書館を休館していたのは、元々予定していた検索システムのメンテナンスを前倒ししたもの、恐らくは年度末の予算消化の為でしょうね。

Posted by: iGa : April 12, 2011 02:39 PM
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