November 09, 2011

「スティーブ・ジョブズ Ⅰ,Ⅱ」

SteveJobs1「スティーブ・ジョブズ」/ウォルター・アイザックソン 著/井口耕二 訳 /講談社
 小さな筺の中に完結したひとつの世界が詰め込まれているというものが僕は好きだ。
図鑑、博物館、動物園、植物園、調和水槽、Mac、そして、伝記。もちろん、それが魅力的につくられたものでなければならない。
 これはジョブズがうなずく最初で最後の伝記なのだ。なにしろ、本人の依頼ではじまったインタビューは2年以上の間に40回を重ね、何を書いても構わない内容に口出しをしないという言葉をジョブズと妻ローリーンはまもり、著者ウォルター・アイザックソンはその信頼を正面から受け止めて、批判も賞讃もほめられない事実も詰め込みながら、透明な美しい筺にしてジョブズに手渡したのだから。

 しかし、日本語版にはジョブズが笑みを浮かべるわけにはいかないだろう。表紙に日本語が割り込むのは当然としても、ページを開くと中身の薄いビジネス書のように平凡で間のぬけたデザインが期待はずれだった。
 この伝記は、完璧なものをつくることを目指してジョブズがいかに生きたかを書いた本である。ジョブズの最期のときに作る本に、そのことを反映させないとはどういうわけだろう。もとの本はこうではないだろうと思ってぼくは英語版を読みたくなり、amazonに注文した。しかし、二度の間違いによってまだぼくは英語版を見ていない。(11月11日に、やっと届いた)

 たしかにジョブズは、多くの敵、競争相手、交渉の相手を罵倒し、ときには仲間さえ切り捨てた。そして、MacOSを他のメーカーのマシンに提供せず、iPod、iPhone、iPadとMacをitunes、icloudによって家族のように結びつけてきた。そういうことが、ジョブズ個人の「攻撃性」と、ジョブズを含めたAPPLEの「閉鎖性」として何度も批判の対象にされてきた。しかしその激しさと執着は、いずれも完璧な製品とシステムをつくるという目的への抗いがたい情熱のなせるものだったということが、この伝記の重要な軸である。

しかし、AKiさんが入手して英語版と比較されたところによると、(Steve Jobs/aki's STOCKTAKING)間が抜けているどころか日本語版では削除されたり改悪されているところがたくさんあるそうだ。文字通り一部分が抜けているのだ。
*索引→削除 登場人物リスト→削除 (ぼくは、登場人物リストの代わりに「REVOLUTION in The Valley」を横に置いて読んだ) インタビュー記録→削除 *出典→削除 *謝辞→削除 写真のクレジット→削除 *英語版では写真ページは紙質と印刷がいい→文章と同じ紙質と印刷 *英語版では写真ページを文章のページの間に入れてある→巻頭に写真を集める・・・・こんな具合だ。
 この本の重要な軸を無視してまでページ数を減らし、編集の手間と時間を節約するために構成を変え、結果としてジョブズを侮辱し日本の読者を欺いた。落丁本として受取人払いで送り返したいところだが、戻ってこないと癪だしなあ。少なくとも講談社は削除したものを小冊子にして配布するくらいはしたっていいだろう。索引や人物リストは、別冊になっていた方が使いやすいということもある。講談社はこの本で大儲けするはずだもの。

 本の内容に戻ろう。  この伝記はジョブズが死をおだやかに語って終わるが、そこで読者にも安らぎをもたらしてくれる。ジョブズは、かつて認知を拒んだ娘Lisaも引き取って他の子供たちと一緒に育てていたこと、妻は進んでそういうことを引き受けることのできる人であったこと、自分が養子に出されたあとに生まれた実の妹Mona Simpsonと生みの母を見つけ出し、最期のときにも妹はそばにいてくれたこと、育ての父と母を愛し誇りに思っていたこと。そういう時と人々がジョブズのまわりを包んでいたことを知って、ジョブズとAPPLEのファンであるぼくたちは安堵して読み終えることができた。

 そうそう最後にもうひとつ、iPhone4のアンテナに欠陥があるとして世界中で非難にさらされたとき、緊急の取締役会をひらくためにジョブズは旅行先から飛んで帰る。そのピンチを自分の眼で見ておけといって息子リードを呼んで立ち会わせるというエピソードもいい話だった。息子にAPPLEを継がせようなどというさもしい根性ではない。ギリギリのピンチに父がどう立ち向かうかを見ておいたほうがいいというのだ。息子は医学部で遺伝子を研究している。
 ジョブズがマシンたちに与えようとしたものは、いつだって何よりもユーザーインターフェイス、つまり人と機械がこころを通わせることだったじゃないか。

■ジョブズの遺伝子
*APPLE追悼セレモニーにおけるジョニー・アイブ(APPLEのデザイン責任者)のスピーチ:英文・日本語訳・映像/maclalala2
*スタンフォード大学メモリアル チャーチの追悼式における妹 Mona Simpsonの弔辞:英文・日本語訳/maclalala2
*フォスターアソシエイトの設計によるApple Campus 2の計画/CUPERTINO市 公式ウェブサイト
*1984年スーパーボウルにおけるCM:ジョブズが、いつまでも反抗者でありつづけようとしたステイトメント/YouTube
all about Steve Jobs.com:ジョブズ情報満載のWebSite
APPLE追悼セレモニーの映像:10月19日 Apple Campusの中庭・晴れ

投稿者 玉井一匡 : November 9, 2011 11:10 PM
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