February 28, 2004

ふたりの来訪者と束子とBlog

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UliとLeo:igualment diferentsから

 2月27日の夕方、石上がふたりの友人をつれて事務所に寄った。ふたりはウリとレオというオーストリア人で、十数年前に共同の仕事があってバルセロナの建築家の事務所に石上が行っていた時に知り合った。そのとき石上はウリと一緒に同じ部屋で働いていたのだという。ふたりは穏やかで人なつっこかった。「石上がバルセロナに行ってまもなく、スペインの人はいい人ばかりだと葉書をくれたけれど、それはきっとあなたのせいだね」というと「そうだよ」と横から石上が言った。
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 5月から9月まで、バルセロナ市がForum BARCELONA というイベントをUNESCOなどのバックアップも受けて開く。その中のひとつで、「igualment diferents」という展示のプロデュースをしているので、そのための材料を集めるべく北・南アメリカ、アフリカ、アジア、オーストラリアなどをまわっているそうだ。

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束子職人のおやじさんと束子:igualment diferentsから

 ふたりは、束子(たわし)を2つ見せてくれた。今日は、これを作るところも見てきたと言う。「こういうものばかり集めてるんだよ」と石上に聞いて、ぼくはとても気に入った。

「デリーには行ったことありますか?人がいっぱいで汚くてひどく騒がしいところだった」「だが、アフリカはとてもよかった。危険だとかなんだとか言われていたけれど、ナイロビ、ダルエスサラーム、ザンジバルに行ったがほんとうによかったよ。人間も、とてもいいひとたちばかりだったし、ザンジバルの海岸といったらあんなに気持ちのいいところはない。」などとあちらこちらの話をしたあと、あわただしく帰っていく間際に住所とURLを書いてくれた。

 ザンジバルはアフリカの東側にある島だと聞いたが、どこにあるのかぼくは分からなかったので、彼らが帰ったあとで地図を広げて見た。メモに残してくれた「igualment diferents」のサイトを開いてみると、撮った写真と書いた文章をすぐその日や翌日にリアルタイムで残している。
 このサイトは、Blogなのだった。Blogの愛用者ならだれもがわかっていることなのかもしれないが、ぼくは、それを見てなるほどと思った。バルセロナにあるプロバイダーのコンピューターに写真入りの日記帳が置いてあって、世界中を移動しながらそれに書き込むことができるし、世界中のだれでもそれを読めるというわけだ。だからmovable typeというんだろうかと思いつつ、ぼくはBlogというもののあり方をひとつ実感した。
 「igualment diferents」を英語でいえば「equally different」らしい。文章はスペイン語で書いてあるからほとんど分からないが、写真の大部分を、道具とそれを作る人使う人が占めているのを見ると、なにを言いたいのか伝えたいのかが、感覚的によく分かる。igualment diferentsを日本語にすると「こんなに違うけれど、みんな同じ人間」というところだろうと、ふたりを思い出しながらぼくは思った。

igualment diferentsへ

投稿者 玉井一匡 : 10:52 AM | コメント (1) | トラックバック

February 12, 2004

眠る男

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 夜遅い山手線の電車で座席に腰をおろすと、ひとりの男が向いの座席でひたすら眠り続けていた。「眠」のつくりをとって、彼の名をタミオと呼ぶことにしよう。周囲の床には彼のものとおぼしき持ち物たちが散在している。持ち物をつぎつぎとまわりに散らして行ったのだ。黒いバックパック、左右の靴、そして携帯電話。
 興味深い光景だったから、バッグからデジタルカメラを取り出して膝の上に乗せた。ストロボは光を台なしにするから、ぼくはいつも設定をオフにしておく。こんな時に液晶ファインダーが可動だと便利なのだが精一杯広角にしてシャッターを押し、液晶をうえに向けて確認する。それからの彼の行動はさらに興味深いものだった。

 いくつかの駅を過ぎて、おりる前に起こしてやらなきゃだなとぼくは思いはじめた。しかし、そこから彼は半ば眠ったまま活動を始める。靴下を脱ぐと、靴を足でたぐり寄せ素足に靴をはく。立ち上がって片方の靴を取りに行った。携帯電話を確保し、バックパックを回収すると腰をおろしてまたしばし眠りについたあと、なにひとつ残さず、慌てるふうもなく、池袋で降りて行った。見事なものだった。
 この間、ぼくはつぎつぎとシャッターを押すのに熱心で、彼の一連の行動を具体的にはよく憶えていない。あとになって写真を見ながら、タミオの一連の動きを再構成したが、写真の順番から行動を想像するのがなかなかむずかしくてパズルのようだった。


 写真を見ると、もうひとつ興味深いことに気付く。タミオの隣に座る若い男、最後にタミオの座っていた席を代わったふたり連れなどの表情から読み取られるように、周囲の人々は彼の行動を横目で見ながらすこぶる好意的な反応を見せた。ぼくについては言うまでもない。できれば話をしてみたいとさえ思った。

 それには、いくつかの理由が考えられる。 1)電車が空いていたし2)タミオは横になって座席をいっぱい使ったりはしていない、それに3)泥酔して人にからむわけでもない。つまり、周囲の人間は彼によってほとんど迷惑をこうむっていない。
 むしろそれ以上の大きな迷惑は、周囲の床を広く使っていることかもしれない。しかし、ケータイ電話にいたるまで自身の所有物をまき散らし、持ち主は熟睡してしまうのは、それらを危険にさらすことでもある。タミオは公共の場所を占有する前に、むしろ私有物の存在の一部をまわりのひとびとに提供することからはじまっている。ぼくたちは、おそらくそれを感覚的に感じ取って、彼の行為を許容し、むしろ楽しんだのだ。そして、これは期間限定・場所限定という条件付きの、一種のお祭りであることはいうまでもない。
 このごろの若者たちが、電車の中で化粧をしたり道ばたでメシを食べたりすることに、大人は眉をひそめる。ぼくも、どーなってるんだろうと思うのだが、その一方では、「領分」についての感覚の変化としてはちょっと面白いことかもしれないとも思うところがあるのだ。

投稿者 玉井一匡 : 11:33 AM | コメント (4) | トラックバック

February 02, 2004

野茂の笑顔

NBC.jpg NBC website のトップページ

 4人の日本人大リーガー、野茂、イチロー、長谷川、松井の2003年を1日にひとりずつ振り返るドキュメンタリーが年はじめにBSで放送された。野茂のときには、日本に帰ってきた彼の活動の様子も紹介された。かつて社会人時代に所属していた新日鉄堺の野球部が廃部にされたが、野茂はアマチュア野球のチームを作り、そのグラウンドを借りて直接に指導をしている。しかも、チームの一年間の運営費5000万円ほどのすべてを野茂が負担するという。胸の熱くなるいい話だった。

 去年の新聞のインタビュー記事に、かつてドジャーズのオーナーだったオマリーが出ていたことがある。「滅多にみせないけれど、それだけに、時おり見せる野茂の笑顔はすばらしい」という。ふだんのぶっきらぼうな表情の下に、心のそこから沁み出してくるようなあの笑顔が潜んでいるということを、日本の多くのマスコミは読み取れなかったのに、アメリカ人のオーナーがそれに気付いていたのを知ってぼくは感心したが、彼の活躍に拍手をしたアメリカのファンも、それを読み取っていたのだろう。

 アメリカに行こうとした野茂を、ぼくの知るかぎりTBSを除くスポーツ新聞もテレビも、日本野球に対する謀反人ででもあるかのようにこぞって袋だたきにした。彼らは、ぶっきらぼうの下にひそむ笑顔を読み取れなかったのだ。そんなこと、マスコミは知らなくてもファンはとうに分かっていた。みんな、ただ野茂が大リーグでどれくらいやるのかということを楽しみにしていたのだ。マスコミは気付きもしなかったのか、日本のプロ野球というシステムに気をつかったのか。そのくせ、ドジャーズで活躍を始めると、掌をかえしたようにあらゆるマスコミがアメリカに押し寄せて周囲の眉をひそめさせた。

 ぼくたちの国家では、寄付金が課税の対象から控除されない。つまり、自分たちの社会を、ひとりひとりの人間が自分の意志で作ろうとすることを国家が受け容れようとしないということだ。それは「国」のやることだよという制度が、この国家を形成しているということだ。マスコミも自分たちが従っている制度を逸脱するような、野茂の行動をかつて否定したのだ。
スポーツを金もうけや広告の道具としか考えないオーナーたちや企業は、彼らの組織という制度がなによりも大切なので、スポーツそのものを愛するひとりひとりのプレーヤーやファンの気持ちが理解できない。

しかし、野茂は、自らの意志と野球に対する愛情で日本の野球を育てることに力を尽くそうとしている.。中田英寿の場合も同じような扱いをうけ、おなじように自分の意志と力でサッカーを育てようとしている。かれらは、現在の制度やそれに寄生しているものたちを肯定しているわけではないが、野球やサッカーを心から愛しているのだ。

野茂ベースボールクラブのウェブサイト
http://www.nomo-baseball.jp/index.html

投稿者 玉井一匡 : 03:30 AM | コメント (0) | トラックバック