September 06, 2006

「もんしぇん」と「一角座」

asahiMonshen0902miniweb.jpg「もんしぇん」を上映している一角座は、とてもいいそして希有な映画館だが仮設建物としてつくられている。だから、もったいないことだが上映が終わると解体されてしまう。そこで、9月2日土曜日、トークショーもあるので写真を撮ってエントリーしておこうと、ぼくは一角座に行くことにしていた。
ちょうどその朝、朝日新聞の都内版に「もんしぇん」の記事が、なかなか丁寧に掲載されていた。 オイこんなのが出ているぞと朝刊を手渡しながら週末の「be」のブルー版を開くと、そこには荒戸源次郎氏のインタビューが出ている。荒戸氏は、ほかでもない、国立博物館の構内という場所に映画館を作ってしまった犯人、いや当人だ。そんなわけでさまざまなことが、この日に重なってしまい、書かなければならないことがたくさんできてエントリーがおそくなってしまった。

荒戸源次郎のインタビューは「逆風満帆」というシリーズで、この日は彼の2回目だが(中)と書かれているから、もう一度掲載されるようだ。たしか2週前の土曜日が一回目だった。宍戸錠の主演でつくったハードボイルドの映画が、日活の口出しで題名をねじ曲げられた。以来、自前の上映館を持たなければ思いどおりのものを世に問うことができないと、仮設の映画館をつくって「ツィゴイネルワイゼン」や「陽炎座」、「どついたるねん」などを単館で上映した波瀾万丈の映画人生を語る。荒戸源次郎のすごみがよくわかるインタビューだが、どうせなら一角座で「ゲルマニウムの夜」を上映しているうちにこれを掲載しろよと思いながら読んだ。それで客が増えたりしたら「逆風」じゃなくなるかもしれないと考えたのか。

 国立博物館の構内の一角座というところで上映するんですと言っても、普通の大人は博物館の一室にある映画館かと思うし、仮設の映画館だといえば、丸太や鋼管の足場でつくった芝居小屋を思い浮かべるだろう。
しかし、国立博物館左脇の国際児童図書館の向かいにある西門の脇の小高い場所に建つ一角座は、いっこうに仮設には見えない。芝生が広がり樹木に包まれた前庭は、秋の日差しがふりそそぐ。気持ちよい屋外のホワイエのようだから、ここを含めて考えれば、東京でも屈指の映画館ではないか。その入り口の両脇には、荒戸源次郎の宣言が掲げられている。「一角座の由来」と、「映画維新」と題する日本の映画界に対する檄文である。ここには、一角座を「ゲルマニウムの夜」のためにつくったとはあるが、仮設だとは決して書かれていない。

外壁は焼付塗装した鉄板のパネルとガルバリウム鋼板の波板。中に入れば、重量鉄骨の柱と梁の堂々たる構造体に、壁はグラスウールボードをアルミのパンチングメタルで包んだパネルを張りつめている。音響もいいし、グリーンのシートは間隔もゆったりとってあってすこぶる快適だ。仮設建物でありながら、じつは日ごとに契約を更改するようにして、 いつまでも存在することを志しているのかもしれない。
この日のトークショーのゲストは叶精二氏。「高畑勳・宮崎駿作品研究所」を主宰する、高畑・宮崎を論じて右に出る者はないひとだ。10年以上前に「もののけ姫を読み解く」という本を出されたとき、それについての講義に参加して以来、夕海の相談相手のひとりとなってくださり、ときに厳しい批判者でもある。満員の会場で、この日は、短い時間で名前と海について語られた。

どこをもんしぇんの上映場所にしようかとあれこれ悩んだが、いわゆる盛り場でなく、まちと血の通わせられるところで上映したいと、夕海は一角座を望んだが、荒戸氏は業界でも強面で畏敬されているらしい。
「ヤクザってどういうことだろう」と、ある日夕海にたずねられた。「うーん、社会的な規範から逸脱する。でも、みずからに独立した規範を課してそれを徹底的にまもる。」「じゃあ、いいことじゃないの」
「正しいヤクザ」をハードボイルドと読み替えてもいい。
そこは、恐い者知らずの強みで、一角座上映をシグロにお願いした。「ゲルマニウム」の上映のあとに一角座で「もんしぇん」を上映させてほしいと、荒戸氏のために試写をして面談していただいたのだった。ゲルマニウムとは違う方向を向いているかもしれないが、10年以上もの長い間、思い続けてやっとこの映画をつくったということを見込んでくださったのだろう。あるいは、荒戸映画とは種類が違うが、やはり角が生えていると思われたのかもしれない。一角座で「もんしぇん」が上映できることになった。長いと思っていた9月29日までの上映期間は、もう3週間目が終わろうとしている。
以前は、国立博物館の公式ホームページに一角座のことが掲載されていたが、いつのまにかそれがなくなっていた。「もんしぇん」の上映の前に解体されるんじゃないかとひそかに心配したが、それは杞憂におわったものの、かけがえのないこの映画館がいつまでも生き続けるためにも、どうか見に行ってやってください。あるいは、もうこの映画館を見られないのかもしれない。
半券で、来年の2月まで博物館の常設展示を見ることができます。

投稿者 玉井一匡 : 11:57 PM | コメント (6)